2019 Fiscal Year Research-status Report
二次元遷移金属ダイカルコゲナイドにおけるバレースピン分極の緩和モデルの構築と制御
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19K14633
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
篠北 啓介 京都大学, エネルギー理工学研究所, 助教 (60806446)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ナノ光科学 / 原子層物質 / バレートロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、運動量空間のバレー自由度とスピンの自由度が結合した「バレースピン」による新規な機能性が発現する原子数層の二次元遷移金属ダイカルコゲナイドにおいて、バレースピン分極緩和メカニズムを解明し、その緩和の制御を目的としている。具体的には、(1)バレースピン分極緩和ダイナミクスの高精度測定システムを構築し、(2)測定結果と理論計算から緩和メカニズムを明らかにし、(3)最適なデバイス構造を作製してバレー分極緩和時間の長寿命化を実現する。本課題の達成により、バレースピンという新しい物理自由度を使った次世代情報プロセスであるバレートロニクス応用の実現につながると考える。 平成31年度は、バレースピン分極緩和のダイナミクス解明を目的に、高精度かつスペクトル分解可能な時間分解過渡反射測定の光学系を構築した。これにより、バレースピン分極緩和ダイナミクスをサブピコ秒の時間分解能で、かつ中性励起子や荷電励起子などの複数の応答を分離して測定することが可能になった。二次元遷移金属ダイカルコゲナイドの単層WSe2のバレースピン分極緩和の応答を測定することで、荷電励起子のバレースピン分極はナノ秒の長い緩和時定数をもつことが明らかになり、荷電励起子がバレートロニクス応用の有力な情報キャリアの候補であることが示唆された。さらに、温度依存性を詳細に詳細に測定することで、フォノンを介したバレースピン分極緩和プロセスが荷電励起子については支配的であるということが明らかにすることができた。 今後は、荷電励起子のバレースピン分極緩和のメカニズムの解明やその制御を目指す。バレースピン分極緩和における交換相互作用の効果を理論的に取り扱い、緩和時間のさらなる長寿命化を達成するために、デバイス構造や複数の原子層物質を組み合わせた人工ヘテロ構造を作製して、キャリア数やクーロン相互作用を制御しながら研究を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、平成31年度に行う主要な部分として、バレースピン分極の測定システムを構築し、サブピコ秒の時間分解能でバレースピン分極緩和ダイナミクスを測定できるようになった。荷電励起子のバレースピン緩和ダイナミクスを詳細に調べることで、荷電励起子がナノ秒の長いバレースピン緩和時間を持つことが明らかになった。温度依存性を詳細に測定し計算結果と比較することで、緩和ダイナミクスだけでなく緩和プロセスの解明に至った。また、単層MoS2にF4TCNQ分子の化学修飾を行うことで、化学ドーピングにより荷電励起子の発光増大とナノ秒の長いバレースピン緩和を同時に達成できた。研究をさらに発展させ緩和メカニズムを理論的に明らかにするには、キャリア数やクーロン相互作用のパラメータを制御した精密な実験が必要である。そこで、研究が計画通りに進まない時の対応として検討していた、異なる原子層物質を積層したヘテロ構造の試料の作製を行い、ヘテロ構造が実現している目安となる層間励起子の応答を確認することができた。層間距離によってクーロン相互作用を制御できることから、バレースピン分極の緩和メカニズムの解明やさらなる長寿命化につながると考える。 これらの研究結果の進捗状況は、研究計画申請時の計画通りであり、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、バレースピン緩和の理論モデルの構築を目指して研究を進めていく。そのために高品質な試料やクーロン相互作用やキャリア数の制御が可能な試料を作製して実験を行う。バッファ層として絶縁体であるh-BN(窒化ホウ素)を用いた試料を用いて、基板の凹凸による構造の乱れや欠陥といった外因的な効果を排除してより本質的な理論モデルの構築に努める。また、異なる試料を積層したヘテロ構造を用いて、クーロン相互作用などのパラメータを制御しながら研究を進め、理論モデルの構築への足がかりとする。平行して平成31年度に構築した実験系を、過渡反射測定に加えて、時間分解発光測定も同時に行えるように改良を予定している。発光測定を相補的に行うことで、バレースピン分極緩和ダイナミクスのより包括的な理解が得られ、理論モデルの構築につながると考えられる。 h-BNを用いた高品質試料や異なる原子層物質を積層したヘテロ構造の作製方法のノウハウは平成31年度に完成しており、随時遂行できる状態にある。また、九州大学の吾郷教授と共同研究を進めており、TEMグリッド上に転写した化学気相堆積(CVD)成長した高品質試料の測定も平行して進めている。時間分解発光測定はこれまでに構築した経験があるため、高時間分解能の検出器を導入し次第、過渡反射測定と時間分解発光測定を同時に測定できるように順次光学系を改良する。さらに、共同研究者である法政大学の小鍋准教授とのディスカッションを通じて、理論モデルの構築に取りかかる。理論グループとのディスカッション、高品質試料の作製、デバイス構造の最適化のサイクルを効率よく繰り返し、理論モデルの構築とバレースピン分極の長寿命化を目指す。
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Causes of Carryover |
バレースピン分極の緩和ダイナミクスを測定するために、4チャンネルのオシロスコープを導入して、光学チョッパーとCCD検出器を同期させることで、高繰り返しで過渡反射スペクトルを一度に計測することが可能になった。これにより、当初予定していた中赤外領域の検出器なしに中性励起子や荷電励起子の応答をスペクトル分解して測定することが可能になり、荷電励起子のバレースピン緩和ダイナミクスの測定や、緩和プロセスを明らかにすることができた。そこで、当初の予定をさらに発展させ、時間分解測定のための高分解能検出器を導入し、過渡反射測定に加えて時間分解発光測定を同時に測定できるように実験システムの改良を検討している。こうした相補的な実験を用いて、包括的な緩和メカニズムの解明を目指し、本課題を順次進めていく予定である。 また、構築した測定システムで得られた成果を発表するために、3月に予定していたアメリカ物理学会や日本物理学会等での発表がコロナウイルスのために中止となり、予定していた旅費(50万前後)も使用されなかった。
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[Presentation] 山田 悠貴, 青木 佑樹, 福井 暁人, 吉村 武, 芦田 淳, 藤村 紀文, 篠北 啓介, 松田 一成, 桐谷 乃 輔2019
Author(s)
山田 悠貴, 青木 佑樹, 福井 暁人, 吉村 武, 芦田 淳, 藤村 紀文, 篠北 啓介, 松田 一成, 桐谷 乃 輔
Organizer
球状微小共振器付き単層 WSe2 の光学特性
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