2019 Fiscal Year Research-status Report
Observation of helical edge states in topological photonic crystals
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19K14634
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
猪瀬 裕太 京都大学, 理学研究科, 特定助教 (90634501)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | フォトニック結晶 / トポロジカル絶縁体 / 時間領域差分法 / テラヘルツ時間領域分光法 / 電気光学サンプリング法 / テラヘルツ光 / テラヘルツ波 / ナノ構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、実験で使用するテラヘルツ光に対応したExpanded構造およびShrunken構造の2つのフォトニック結晶を作製し、フォトニックバンド構造の光学測定および数値計算を遂行した。その結果、作製した試料がテラヘルツ帯においてフォトニックバンドギャップを有することを確認できた。本研究では、(A)試料構造設計・光伝播解析、(B)試料作製、(C)光学測定、という3つの班で研究体制を構成して研究を遂行している。各班における具体的な研究実績は、以下に示す通りである。 (A)試料構造設計・光伝播解析:A班では、2つのフォトニック結晶におけるフォトニックバンド構造を計算し、実験で使用するテラヘルツ帯のパルスレーザーに対応する試料構造案を算出した。また試料構造の変数を、実際に作製された試料の数値に置き換えることで、C班における測定結果で得られた振る舞いを数値計算で再現することに成功した。 (B)試料作製:B班ではA班の試料構造案を受けて、薄膜シリコンウェハをフォトリソグラフィーと深掘りドライエッチングによって加工し、テラヘルツ帯に対応するフォトニック結晶を作製した。完成した試料は、設計した構造にかなり近いものであることを光学顕微鏡像から確認できている。膜厚が非常に薄いことによる作製時の破損を回避する工夫を加え、C班による光学測定までこぎ着けることができた。 (C)光学測定:C班では、B班で作製した試料を用いて透過率測定を行った。用いた測定手法はテラヘルツ時間領域分光法であり、電気光学サンプリング法によって試料を透過したテラヘルツ光の時間波形を検出し、透過スペクトルを取得した。スペクトルの入射角度依存性を測定することで、フォトニックバンド構造を実験から算出することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では実時間テラヘルツ顕微鏡による空間分解を計画しているが、初年度は周波数分解能がより高い透過光測定を行った。透過測定の角度依存性からフォトニックバンド構造を算出し、テラヘルツ帯において設計通りにバンドギャップが生じていることを確認できたため、研究はおおむね順調に進んでいるといえる。各班における進捗状況は、以下に示す通りである。 (A)試料構造設計・光伝播解析:A班では、複雑な試料形状に対応した電磁波解析を実行するため、汎用性の高い3次元時間領域差分法の計算システムを立ち上げた。また必要な計算精度の見積もり、そのほか計算に特有の詳細なパラメーターの最適化を行った。その結果、信頼性の高いバンド構造計算が可能となり、光学測定で得られた振る舞いを再現するところまで進めることができた。 (B)試料作製:B班では、フォトリソグラフィーと深掘りドライエッチングによって薄膜シリコンウェハを加工し、フォトニック結晶の作製を行った。膜厚が非常に薄いためめに破損しやすいことが判明したため、作製プロセスの途中でサポート基板を付着させ、さらに実験に必要な面積分だけを切り出すことで、作製時および実験時における破損の危険性を低くできた。また作製計画時に懸念していた面直方向の加工精度も問題なく、設計にかなり近い試料を作製できるようになってきている。 (C)光学測定:C班では周波数分解能が高い透過光測定を行い、バンドギャップがテラヘルツ帯に形成されていることの確認に注力した。バンドの固有モードと水蒸気吸収はともに透過率が下がる方向への信号であるため、テラヘルツ帯における水蒸気の吸収はバンド構造の算出において大きな障壁であった。水蒸気の影響を減らすために系全体を窒素パージできるよう改良を加え、実験によるフォトニックバンド構造の算出まで進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、フォトニック結晶の作製からフォトニックバンド構造の光学測定まで進めることができたが、Expanded構造において予測されるバンド反転を観測するまでには至らなかった。その原因は、バンドギャップ近傍に存在する水蒸気吸収の周波数が、バンド固有モードの周波数と重なってしまったことにある。窒素パージによって水蒸気吸収をできるだけ抑えてはいるのだが、現状では残存する吸収信号がバンド構造測定を難しくしている。試料設計の段階では、使用するパルスレーザーの強度が最も強い周波数帯にバンドギャップが生じるように構造変数を考えていたのだが、その方針に変更を加える必要がある。 今後は構造変数に修正を加え、水蒸気吸収の影響が少ない周波数帯にバンドギャップを僅かにシフトさせることを計画している。なお、シフトさせた周波数ではパルスレーザーの強度がやや弱くなるが、問題なく測定可能であることは既に確認している。2020年度は修正した試料構造での透過率測定から、バンド反転を確認することを目指す。また、Expanded構造とShrunken構造の2構造を接触させた界面での実験にも取り組んでいく。
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Causes of Carryover |
2019年度は、研究体制立ち上げのために3年間の中で最も多くの使用額を計上していたが、おおむね計画通りの支出状況である。しかしながら新型コロナウイルスの影響で参加予定だった2つの学会が開催中止となり、予定していた旅費が支出されなかったために次年度使用額が生じた。 これまでの研究経過から、数値シミュレーションにおける計算リソース増強が必要であることが判明している。また新型コロナウイルスの影響で、遠隔操作導入など研究体制の変更が必要になっている。2020年度は、これら研究環境の拡充にも物品費を計上する計画だが、総額は予定額の範囲内に収まる見込みである。
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