2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K14637
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
奥山 倫 明治大学, 理工学部, 助教 (60735562)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | カーボンナノチューブ / フォノン / 量子光学 / メゾスコピック系 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度はカーボンナノチューブの電子とフォノンを、それぞれ電荷量子ビットと単一モードによって簡単化した模型について、数値解析を行った。カーボンナノチューブにバイアス電圧を印加した外部電極を接続し、非弾性伝導を観察した。その結果、(1)電荷量子ビットのうち、ソース電極に接続した状態のエネルギーを、ドレイン電極に接続した状態のエネルギーよりも、フォノンのエネルギーの整数倍だけ大きくした場合、エネルギー準位間隔に相当するフォノンの放出を伴う非弾性伝導が観測された。これは半導体量子ドットなど、比較的電子・フォノン結合の弱い系でも期待される効果である。さらに、(2)電荷量子ビットのうち、ドレイン電極に接続した状態のエネルギーを、ソース電極に接続した状態のエネルギーよりも、フォノンのエネルギーだけ大きくした場合、フォノンの吸収を伴う非弾性伝導が観測された。系の温度はフォノンのエネルギー≒10Kに比べて十分低く設定しているため、熱平衡状態でフォノンは存在しない。このとき吸収されるフォノンは、電子・フォノンの強結合効果によって、カーボンナノチューブ自身が放出したものである:強い相互作用のため、カーボンナノチューブに余剰の電子が存在する状態は、電子が存在しない場合とは格子の平衡位置が大きく異なる。したがって、ソース電極から電子がナノチューブにトンネルするのに伴い、格子の変形、すなわちフォノンの励起が生じる。フォノン吸収伝導は、このフォノンをナノチューブ自身が吸収することによるため、「フォノンの自己吸収効果」と捉えることができる。この成果はInternational Symposium on Hybrid Quantum Systems 2019ほか、内外の学会で発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述のように、2019年度はカーボンナノチューブを簡単化した模型を用いて理論解析を行い、強い電子・フォノン相互作用に特有の新奇現象を見いだした。2019年度末には、数値解析に特化した高性能の計算機を導入した。この計算機を用いることで、さらなる研究の深化が可能となる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は先に導入した計算機を活用することで、より現実のカーボンナノチューブに即したモデルを用いた数値解析を行う。前年度に見いだした電子・フォノンの強結合効果を確認するだけでなく、ナノチューブの有限サイズ効果を採り入れた解析を行うことで、ミクロとマクロをつなぐという新しい観点から、フォノンの量子光学の物理を探究する。
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Causes of Carryover |
数値解析用の計算機が予定していた金額よりも廉価で導入できたため、次年度使用額が生じた。繰越金は、主に計算機をより効率的に運用する上で必要となるオプション(消耗品)ないしソフトウェアの購入に充当する予定である。
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