2019 Fiscal Year Research-status Report
シリコン量子ドット中の電子スピンを用いた量子計算基盤技術の高性能化に関する研究
Project/Area Number |
19K14640
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
野入 亮人 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (40804042)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 電子スピン / 量子ドット / 量子ビット |
Outline of Annual Research Achievements |
はじめに制御性の高いシリコン3重量子ドット試料の作製に取り組んだ。本研究では、ドットのエネルギー準位およびドット間の結合とドットとリード間の結合全てがゲート電極に印加する電圧で自在に制御可能である必要がある。この要請を満たすためには、ゲート電極を積層した試料構造が有用であることがわかっているものの、ゲート電極がショートしやすく試料作製の歩留まりが悪いという課題があった。そこで積層ゲート間の絶縁方法と、試料作製中の帯電防止の観点から試料作製手順を改善し、試料作製の歩留まりを大幅に改善することに成功した。 次に、作製した試料を希釈冷凍機で測定し、3重量子ドットとしての動作を行ったころ、上記の各パラメータが十分制御可能であることを確認した。続いて、各ドットの電子スピンに対して、電子スピン共鳴による単一スピン回転操作を行った。量子ドット近傍に配置した微小磁石の漏れ磁場により、それぞれのスピンを独立に操作可能であることを確かめた。この結果は、この試料が3つの単一スピン量子ビットによる3量子ビット系として動作可能であることを意味している。また、ランダム化ベンチマーク法で3つの量子ビットに対して単一量子ビット操作精度を評価したところ、全て99%以上の忠実度で操作可能であることがわかった。 最後に、3つのドットのうち隣接する2つのドットを用いて一重項-三重項量子ビットとしての動作原理検証を行った。これまでシリコン試料では、このタイプのスピン量子ビットの操作忠実度は検証されていなかった。今回ランダム化ベンチマーク法を用いて一重項-三重項量子ビットの単一量子ビット操作精度を検証したところ、こちらも99%以上という高忠実制御が可能であることがわかった。これら一連の成果により、本研究の目的達成の準備が整った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的達成に向けて最も困難であると予想されるのは、制御性の高いシリコン3重量子ドット試料の作製である。2019年度は、制御性に優れる積層ゲート構造の試料作製技術の開発に力を入れ、再現性良く高い歩留まりで試料を作製する手法を確立した。加えて、作製した試料の希釈冷凍機温度での特性評価も完了しており、想定通り3重量子ドットとして動作することも確認した。さらに、各量子ドットに1電子ずつ入れた状態で、単一スピン量子ビット、一重項-三重項量子ビットとしての動作も確認し、高い忠実度で単一量子ビット操作が可能であることもわかった。これらの成果から、単一スピン量子ビットと一重項-三重項量子ビットから成る異種スピン量子ビット複合系の実現という目的達成に沿って概ね順調に研究が進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定では、作製したシリコン3重量子ドット試料を用いて、1つのドットを単一スピン量子ビット、残り2つの量子ビットを一重項-三重項量子ビットとして動作し、これら2量子ビット間の操作も含めた異種スピン量子ビット複合系の実現を最終目標としていた。これまでの研究で、おおむね最終目標達成に必要な諸要件は満たせたと考えられる。また、この試料は3つの単一スピン量子ビットによる3量子ビット系としても動作が可能であることがわかった。特に3量子ビット系では、電子スピン量子コンピュータの研究で大きなマイルストーンとなっている量子誤り訂正の実行が可能であるうえ、3量子ビット系の実証自体報告例が無く、3量子ビットもつれ状態の生成や最も基本的な3量子ビット操作の一つであるトフォリゲート操作など重要な動作原理検証実験も実現されていない。そこで、2020年度は、当初の予定通り異種スピン量子ビット複合系の実証を目指しつつ、上記の3量子ビット系としての実験にも力を入れたい。
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Causes of Carryover |
本年度は、試料作製が順調に完了し測定を開始することができた。試料作製では、消耗品として予算を計上していたが、他の予算から執行したため予算計画に変更が生じた。一方で、測定においては、多数のゲート電極に印加する電圧源となる低ノイズ多チャンネルD/Aコンバータが必要であることがわかった。そこで、本年度はこの多チャンネルD/Aコンバータ購入において、前倒し支払い請求を含め大部分の予算を執行した。前倒し支払い請求時には増税のタイミングもあり多チャンネルD/Aコンバータの購入額が確定していなかったが、実際想定額より安く購入することができたので、残りを来年度に使用することとした。来年度は、実験状況を踏まえつつ、必要な物品の仕様を検討を行った上で、本来予定されていた高周波部品の購入などに使用する予定である。
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Research Products
(22 results)
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[Presentation] Towards quantum teleportation with quantum-dot spin qubits2019
Author(s)
Yohei Kojima, Takashi Nakajima, Akito Noiri, Jun Yoneda, Tomohiro Otsuka, Kenta Takeda, Sen Li, Stephen D. Bartlett, Arne Ludwig, Andreas D. Wieck, and Seigo Tarucha
Organizer
Compound Semiconductor Week 2019
Int'l Joint Research
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[Presentation] Control and measurement of electron spin states in quadruple quantum dots2019
Author(s)
Takumi Ito, Tomohiro Otsuka, Takashi Nakajima, Matthieu R. Delbecq, Shinichi Amaha, Jun Yoneda, Kenta Takeda, Akito Noiri, Giles Allison, Arne Ludwig, Andreas D. Wieck, and Seigo Tarucha
Organizer
9th Summer School on Semiconductor/Superconductor Quantum Coherence Effect and Quantum Information
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[Presentation] Determination of the direction of the spin-orbit field in a physically-defined p-type MOS silicon double quantum dot2019
Author(s)
Marian Marx, Jun Yoneda, Angel Gutierrez Rubio, Peter Stano, Kenta Takeda, Yu Yamaoka, Tomohiro Otsuka, Takashi Nakajima, Akito Noiri, Sen Li, Daniel Loss, Tetsuo Kodera, and Seigo Tarucha
Organizer
9th Summer School on Semiconductor/Superconductor Quantum Coherence Effect and Quantum Information
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[Presentation] Flip-chip implementation of cQED2019
Author(s)
Juan Rojas Arias, Takashi Nakajima, Kenta Takeda, Akito Noiri, Takashi Kobayashi, Sen Li, and Seigo Tarucha
Organizer
9th Summer School on Semiconductor/Superconductor Quantum Coherence Effect and Quantum Information
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