2020 Fiscal Year Research-status Report
非対称なダイマー構造が誘起する新奇な電子状態の解明と機能開拓
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19K14641
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
福岡 脩平 北海道大学, 理学研究院, 助教 (80746561)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 分子性固体 / 誘電性 / 磁性 / 超伝導 / 核磁気共鳴 / 熱測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画はλ-(BEDT-STF)2MCl4(M = Fe, Ga)を対象として、非対称なdimer構造を有する分子性固体で発現する電荷自由度とスピン自由度の結合に起因する特異な電子相、応答現象の探索と解明を目的としている。昨年度は主にλ-(BEDT-STF)2FeCl4の磁気的性質の解明に取り組んだ。本年度は混晶塩λ-(BEDT-STF)2FexGa1-xCl4の基底状態とBEDT-STF塩の誘電性の研究に取り組んだ。 λ-(BEDT-STF)2FexGa1-xCl4については、Fe濃度が減少するにつれて磁気転移温度が減少するが、転移温度がゼロに漸近せずFeを20%に希釈しても転移温度が8 Kにとどまることを見出した。さらに低濃度域を詳細に調べたところ、20%付近から急激にNMRのスピン格子緩和率の発散が抑制され、反強磁性秩序が消失することが分かった。この結果は理論研究による結果と矛盾しない結果であり、π-d系の基底状態の磁気的性質の解明につながる成果と言える。また、熱容量、メスバウアー測定からλ型塩でみられる特異な常磁性的挙動、磁化過程はFe20%試料でも観測されることを確認した。 誘電測定については、本年度中に測定に用いる基板の作製、安定した測定環境の整備等を終え、これまで問題となっていた浮遊容量の影響を1桁程度改善することに成功した。整備したシステムでλ-(BEDT-STF)2FeCl4の誘電測定を行ったところ60K付近で明瞭なリラクサー的挙動の観測に成功した。λ-(BEDT-STF)2GaCl4でもほぼ同じ温度域でリラクサー的挙動が観測されることが他グループによって報告されており、両試料の誘電異常の起源が同一であること、誘電異常の起源に3dスピンの有無は関係していないことを示唆する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までに、λ-(BEDT-STF)2FeCl4及び混晶塩の磁気状態について計画していた研究はほぼ完遂し、π-d系の基底状態解明につながる結果が得られたと考えている。混晶塩に対する熱容量測定の結果は本年度中に論文として公表しており、NMR、メスバウアーの結果は論文投稿準備段階にある。一方で、Fe低濃度域(Fe20%以下)での磁気秩序の有無や磁気秩序の安定化機構については一部計画段階の予想と異なる挙動が見られており、λ-(BEDT-STF)2GaCl4の基底状態の研究と合わせて新たな研究展開が見込まれる。 初年度はλ-(BEDT-STF)2FeCl4の磁性について成果が得られたことから、混晶塩の研究を前倒しして取り組んだため、λ型塩の誘電性の研究については後回しにしていたが、本年度中にリラクサー的挙動の観測に成功し、誘電性の発現機構やπ-d相互作用の有無による違いについての議論を進めることが出来るなど、当初の計画に追いつくことが出来た。以上のことから、計画していた実験の順番に多少の前後はあるが研究計画全体の進捗状況は良好であり、最終年度までに期待していた成果が見込めるため、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
誘電測定の測定範囲を低温、強磁場まで拡張し、π電子系の磁気秩序と誘電応答との関係や3dスピン系を磁場で制御することで誘電特性が変化する磁気誘電現象の探索と解明を目指す。また、誘電測定のほかにも、四極子を持つGaサイトに注目したGa NMR測定、振動分光測定等を相補的に用いることでdimer内の電荷に起因した誘電性の作動原理と微視的な起源、特異な電子状態の解明を目指す。 λ-(BEDT-STF)2GaCl4及びFe低濃度域での磁気状態についてNMR測定及び熱容量測定から議論する。最近の研究においてアニオン層に存在するGa核種を用いたGa NMR測定が当初想定していた電荷の情報のみならず、πスピン系の磁気状態の研究、π-d相互作用の大きさの評価にも非常に有効なプローブであることが分かってきた。そこで、計画していたH NMR、C NMR測定に加えてGa NMR測定を相補的に用いながら研究を行う予定である。Fe低濃度域での3dスピン系の磁気状態については信号強度が鉄の濃度に依存するメスバウアー測定が困難であるため、新たな手法としてμSR測定を計画しており、すでに試料合成を終えマシンタイムも確保している。 当初注目していたλ型塩はドナー分子がBEDT-STFであったが最近の研究で新たにBESTをドナー分子とするλ型塩の大型試料の合成が可能となった。BEDT-STF塩と比較するとBEST塩は統一相図の負圧域に位置し、同一構造の絶縁体でπ-d相互作用の大きさ、π電子系の基底状態が異なる等、BEDT-STF塩とよい比較物質となることが分かった。そこで最終年度はBEDT-STF塩、BEST塩の両方の測定に取り組み、両者の結果を比較しながら電荷自由度とスピン自由度の結合に起因する特異な電子相の解明に取り組む予定である。
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Research Products
(6 results)