2019 Fiscal Year Research-status Report
Excitation dynamics in excitonic condensation phase
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19K14644
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
杉本 高大 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教(有期) (70756072)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 変分クラスター法 / 熱的純粋量子状態 / ハバード模型 / 有限温度 / 遷移金属酸化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
半導体または半金属において、クーロン引力により伝導電子帯を構成する軌道の電子と価電子帯を構成する軌道の正孔が自発的に対形成して基底状態でボーズ凝縮を起こした状態を励起子相と呼ぶ。近年になってTa2NiSe5やある種のコバルト酸化物などの候補物質が提唱され、現在、世界中で急速に研究が進展している。特に遷移金属化合物で発現する励起子相は、強い軌道間相互作用が系の本質である。本研究課題は有限温度および非平衡状態における強相関励起子相の物理を明らかにすることを目標にする。本年度は特に以下の成果を得た。 (1) 励起子相の有限温度計算に先立ち、計算の枠組みとなる有限温度変分クラスター法の開発を行った。変分クラスター法では、有限のサイズの孤立したクラスターにおける状態を使って無限系の状態を近似的に求めることができる。この手法の有利な点は、平均場を導入することで反強磁性秩序や励起子凝縮などの自発的対称性の破れを扱えることである。クラスター内の有限温度の性質を求めるためには、通常は各固有状態から得られた物理量にボルツマン因子をつけて足し合わせる必要があるが、本研究では熱的純粋量子状態を用いた手法により計算コストを下げることに成功した。具体的に単軌道ハバード模型に適用して秩序パラメタ、比熱、一粒子スペクトルの温度依存性の計算を行った。 (2) 関連する成果として、層状ペロブスカイトα-Sr2CrO4の圧力下における電子状態の第一原理計算を行った。この物質では常圧化においては降温によって軌道の秩序化とスピンの秩序化の二段階の転移があるが、圧力を印加することによって転移が一段階のみとなることが実験的に観測されていた。常圧化では配位子場理論で予測される軌道準位の逆転が起きていることに起因して二段階となるが、圧力下ではこの準位の逆転が元に戻ることで転移も一度だけとなることを理論的に示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は全体を通じて、前半では励起子相の有限温度状態について、後半では非平衡状態における時間発展について扱う計画である。当初の予定通り、励起子相の有限温度研究の道具として使える有限温度変分クラスター法の開発を行うことができ、今後の励起子相研究のための下地が整った。また、同時進行で実験グループと共同で圧力下のα-Sr2CrO4の第一原理計算による研究を進めることができた。以上のことから研究は順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究に引き続いて、有限温度変分クラスター法を用いた励起子相の研究を推進する。同時にクラスター平均場などの他の有限温度計算の手法も取り入れた研究も進めることで、計算結果の妥当性の検証も行っていく。加えて、従来の非常に単純化された有効模型を超えた、励起子相を有すると見られている候補物質の軌道の対称性を反映した有効模型の構築とその計算を進めることで、実験との突き合せを行いながら有限温度の励起子相の物理の解明を目指す。 また、年度の後半からは励起子相の非平衡のダイナミクスに関係した研究を開始する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の発生により日本物理学会第75回年次大会(2020年)の現地開催が中止となったため、参加のための旅費が未使用になった。この未使用分は次年度の旅費に充当する計画である。
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Research Products
(12 results)