2019 Fiscal Year Research-status Report
Charge-spin-orbital coupled phenomena in Slater-Mott crossover
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19K14650
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
諏訪 秀麿 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60735926)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スピン軌道絶縁体 / 5d電子系 / スレーター・モットクロスオーバー / スピン軌道相互作用 / イリジウム酸化物 / ダイナミクス / ハートリーフォック / GPU |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、強相関と弱相関の間の中間領域で顕著となる電荷・スピン・軌道相互作用が織りなす多彩な物理現象を明らかにする。一般的に、強相関極限においては電荷自由度が凍結したモット絶縁体となり、一方、弱相関極限においては平均場近似でよく記述できるスレーター絶縁体となる。これらの中間(中相関)領域では、摂動展開が有効でなく、理論的な取り扱いが難しい。近年、中間領域にある非自明な物質として、イリジウム酸化物などの5d電子系が大きな注目をあびている。中でもSr2IrO4は、顕著なスピン軌道相互作用によりスレーター・モットクロスオーバー領域に属し、強い電荷スピン相互作用を持つ。この物質は銅酸化物高温超伝導体とよく似た構造を持つため、3dと5d電子系の違いを調べるための格好の物理系となっている。 2020年度では、中相関領域かつ有限温度の系のダイナミクスを計算する新しい数値計算手法を開発した。この成果により絶縁体状態における電子スピンダイナミクスの効率的計算を可能とした。我々の手法は、強相関領域で有効なランダウ・リフシッツダイナミクスを中相関領域へ拡張したものとなっており、また絶対零度で乱雑位相近似(RPA)と一致する。つまり強相関・絶対零度で有効な既存手法を中相関・有限温度領域へ自然に拡張したアプローチと言える。また我々の計算コードはGPUを効率良く用いており、計算物理学的にも先進的なアプローチと言える。本年度の手法開発の成果により、これまで困難であった大規模系のスペクトル計算と、実験との定量的な比較を可能とした。現在、これらの成果をまとめた投稿論文を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はこれまで計算困難であった中相関・有限温度領域のダイナミクスに挑戦するものである。従って新しい計算手法の開発は本課題の中で重要な位置を占める。手法開発によってこれまで難しかった解析が可能となり、実験結果と比較できるようになる。その意味で本年度の成果は本研究に不可欠なものであり、順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題の目標は中相関領域での電荷・スピン・軌道相互作用が織りなす物性現象を明らかにすることであるが、その目標へむけて、中相関領域の代表的な5d電子系であるイリジウム酸化物の物理を解明することは重要である。今後の推進方策としては、開発した計算手法を応用し、イリジウム酸化物のダイナミクスを明らかにする。特に複層系Sr3Ir2O7について詳細に調べる。複層系と単層系のダイナミクスは大きく異なることが実験的に知られている。単層系では励起にギャップがないが、複層系では比較的大きなスピンギャップが存在する。また強相関領域からのアプローチであるスピン波計算ではうまく説明できない励起モードが複層系で観測されている。今後はこれらの中相関領域に特徴的な励起モードの機構と単層系との本質的な違いを明らかにする。
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Causes of Carryover |
年度末に参加予定だった学会が新型コロナウイルスの影響によりキャンセルとなったため、次年度使用額が生じた。その分は、本研究に関するより多くの計算ができるように、スーパーコンピュータ借料に使用する予定である。
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Research Products
(6 results)