2019 Fiscal Year Research-status Report
従来型・非従来型超伝導体に対する超伝導密度汎関数理論の開発と応用
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19K14654
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野本 拓也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (60804200)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 超伝導密度汎関数理論 / Migdal-Eliashberg理論 / 非従来型超伝導 / 第一原理計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は非経験的第一原理計算に基づく超伝導計算手法の開発、およびそれを用いた従来型・非従来型超伝導の発現機構解明を目的としている。本年度は、研究実施計画にある超伝導密度汎関数理論(SCDFT)へのスピン軌道相互作用の導入と奇パリティ超伝導を含めた計算手法の実装を行い、開発した手法を用いてSn1-xInxTeおよびCuxBi2Se3の超伝導発現機構の研究を行った。
ドープしたトポロジカル絶縁体CuxBi2Se3およびトポロジカル結晶絶縁体Sn1-xInxTeにおいては、トポロジカルに非自明な奇パリティ超伝導が実現しているという提案がなされている。スピン軌道相互作用を起因とした軌道間引力などの発現機構が議論されているが、微視的な根拠はなく、またCuxBi2Se3においては電子格子相互作用の波数依存性が重要という指摘もある。本研究では、今回開発したSCDFTを用いてこれらの計算を行い、Sn1-xInxTeにおいては、奇パリティ超伝導が予想されている低ドープ領域においてもその不安定性は非常に小さく、転移温度のドープ依存性もスピン軌道相互作用によって増強されたs波超伝導状態でコンシステントに説明できることを示した。また、CuxBi2Se3においても、最安定な超伝導状態はs波であり、報告されている電子格子相互作用の強い波数依存性も確認できなかった。ただし、我々の計算ではCuxBi2Se3の転移温度のドープ依存性を再現できておらず、これはCuxBi2Se3の超伝導がBi2Se3の電子状態に直接由来するものではない、もしくは電子格子相互作用以外の非従来型な発現機構で起きていることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画通り、超伝導密度汎関数理論(SCDFT)にスピン軌道相互作用の効果を取り入れること、および奇パリティ超伝導を計算できるように拡張することに成功し、またこれに基づいてトポロジカル超伝導候補物質の解析を行った。Sn1-xInxTeとCuxBi2Se3のどちらについても奇パリティ超伝導を強く支持する結果は得られたかったが、Sn1-xInxTeに関してはスピン軌道相互作用による増強効果で転移温度のドープ依存性を再現することに成功し、またCuxBi2Se3においても超伝導発現機構について新たな見識を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今回開発したSCDFTは奇パリティ超伝導体は取り扱えるものの、その適用範囲は空間反転対称性のある物質に限られている。今後は当初の予定通り、空間反転対称性の欠如した超伝導体へ適用可能な方法論の開発を行う。 また、近年開発されたIR基底を用いることで、従来困難だった低温超伝導に対して、第一原理的Migdal-Eliashberg理論計算を適用することが可能になる。このような周波数依存性を考慮した手法は特に強結合超伝導体において特に重要と考えられ、その重要性を鑑み、これに関する手法開発も同様に行っていく。
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