2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K14655
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田縁 俊光 東京大学, 物性研究所, 助教 (10771090)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 擬量子極限 / 電気抵抗振動現象 / 強磁場 / グラファイト / 薄膜 / ファンデルワール積層 |
Outline of Annual Research Achievements |
グラファイトの擬量子極限(10-30 T)において磁場に周期的な電気伝導率の振動が2017年に発見され、注目されている。その振幅が量子化抵抗程度であることから量子現象由来である可能性が指摘されている。その起源として結晶に積層欠陥による超格子が形成され、そのポテンシャル変調によって干渉効果が起こっている可能性が提唱されているが、直接的証拠はない。本研究では人工的に相対角度を制御して結晶を積層させることで超格子を導入した試料を作製することができればその起源解明を行うことができると考えている。 そこで、1年目である令和元年度は基板上に直接作製する単純なグラファイト薄膜の作製に取り組み、実際に作製することに成功した。この試料を東京大学物性研究所の非破壊型パルスマグネットを使った最大70 Tまでの面内電気抵抗測定を行うことで評価した。これは薄膜化したグラファイト試料においてパルス磁場中で精密に電気抵抗測定が行えるかを検証することが目的である。一方、超格子を導入した試料を作製する前段階として、六方晶窒化ホウ素でグラファイトをカプセルした構造を作製し、10 Tまでの定常磁場下電気抵抗測定評価を行った。これは角度を制御した積層試料を作製する上で必須である、微小結晶積層技術を確立することを目的としており、粘弾性ポリマーを温度制御することで実際にハンドリングする技術がおおよそ確立した。 次年度以降は積層した薄膜の伝導測定を実現するための電極形成といった周辺技術を含め、複合積層技術の確立を目指す。また、実際に積層した試料のパルス強磁場中での測定を行い、測定が実際に可能であることを実証する。さらに、積層技術にまだ取り入れることのできていない結晶間の相対角度制御についても取り組み、実際に超格子構造が入っていること、そしてその効果が電気伝導測定にどのように反映されるかを実験的に確かめていくことを行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を達成するためには、角度を制御してグラファイト結晶を積層、電極を形成し、それを30 Tを超える強磁場下で電気抵抗測定することが必要である。本研究課題1年目の令和元年度は角度制御部分を除く積層構造作製技術について、微小結晶のハンドリングを可能とする粘弾性ポリマーの扱いに取り組み、実際に六方晶窒化ホウ素でグラファイトをカプセル化した試料を作製することに成功した。さらに70 Tまでの非破壊型パルスマグネットを使った電気抵抗測定をまずは単純な試料を対象にして、実際に20 K以下の低温で温度制御をしながら精密に磁気抵抗測定を行うことに成功した。したがって、次年度以降に積層技術の確度を高めつつ、角度制御を可能とする技術を取り入れて積層構造を作製する技術を確立することで、本研究の核心部に取り組む下地が整った。以上の理由から、研究はおおむね順調に進展していると言える。 具体的な進捗状況としては、粘弾性ポリマーの粘着力が温度可変であることを実際に検証し、これを利用した転写技術が確立しつつある。シリコン基板上に劈開して転写した微小結晶を半円球状の複合層ポリマーを上からコンフォーマルに接触させることで吸着し、再び温度制御を行いながら基板からポリマーを引き剥がすことで狙った結晶のピックアップを実現した。さらに、別の基板あるいは微小結晶上に顕微鏡下で位置を制御しながら転写することにも成功している。当初は成功確率は低かったが、現在は技術が確立しつつあり、確実にピックアップすることができるようになってきた。一方、パルス強磁場中での電気抵抗測定は薄膜の場合ノイズによって測定することが難しくなる傾向にあるが、数値ロックインの手法によって精密な測定を実現できることが実証された。
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Strategy for Future Research Activity |
まず積層技術の確度を高めることを目標とする。また、現在の積層構造は伝導チャネルを部分的に保護する構造とすることで電極構造が簡単になるようにしているが、理想的には試料全体の完全な保護構造であるため、その構造の場合の電極作製の試作を行う。そして、積層構造の試料において、パルス強磁場中での電気抵抗測定を実際に行う。 同時に、角度制御した試料作製に取り掛かる。これを行うには1つの微小結晶を分割する必要があるが、機械的に結晶を破る方法とエッチングによって分割する方法が考えられる。いずれの方法も本研究のターゲットとなる膜厚のグラファイトでは報告がないため、条件出しを行う。分割することができれば次に相対角度を制御する必要があるが、顕微鏡下で画像を元に角度を算出する方法を始めに試す予定である。これでは不十分な場合、機械的な角度制御機構を持つ装置の開発に取り組む。 実際に相対的に角度を制御した試料を作製することに成功すれば、それが超格子導入に寄与しているか検証する。構造解析の手法は比較的難しいと考えられるため、電気伝導測定のファンチャートなどの手法を用いて相対角度導入の効果が現れるか検証する。その際、高温アニールによる格子不整合の緩和も相対角度導入効果の検証に利用できるかもしれない。これらが確かめられれば、最終的に再びパルス強磁場中での測定を行い、磁場に周期的な電気抵抗の出現と超格子の関係を検証し、その起源について解明する。
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Causes of Carryover |
当初の予定では高速オシロスコープを購入する予定であったが、これはパルス強磁場中での薄膜測定における困難が予想されたためである。実際にどのスペックが測定の精度を高めるのに最も効果的かを見極めるために、まずは既存の装置を使って測定を行ったため、実際の購入は次年度以降に持ち越すことに決めた。したがって、使用時期に変更はあったが、使用計画に大きな変更があるわけではないため、当初の予定通り執行してつもりである。
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Research Products
(1 results)