2019 Fiscal Year Research-status Report
Search for Pressure-Induced Superconductivity in Chalcogen Hydrides
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19K14659
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
榮永 茉利 大阪大学, 基礎工学研究科, 特任助教(常勤) (70709899)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 圧力誘起超伝導 / 放射光粉末X線回折 / 水素化合物 / 高温高圧合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、相次いで硫化水素やランタンの水素化合物が150万気圧 (150 GPa) の超高圧下で200 Kを超える超伝導転移温度Tcをもつことが発見された。本研究では、新たな高温超伝導体を見出すことを目的に、硫黄と同族のカルコゲン (第16族元素) の水素化合物の高温高圧合成を試みた。本研究では、まず、1) 電気抵抗測定用の電極を持つダイヤモンドアンビルセル (DAC) に高密度水素ガスを目的元素と封入する技術を確立し、次に2) 水素化合物の高温高圧合成を行った後、3) 合成試料の物性測定を行う、というプロセスとなる。昨年度は、物質・材料研究機構の中野智志氏との共同研究により、上記の (1) の水素充填の技術確立に注力した。 1) 水素を充填するための最適条件を決定した。DACは対向した二つのアンビル間に試料と共に挟んだ金属板で圧力を保持する。電気抵抗測定ではこの金属板と電極の間に電気的な絶縁層を設置し、この層にあけた穴を試料室とするが、水素は全元素中で最も小さく、物質に容易に侵入する。そのため、この試料室への水素ガスの充填・保持は難しく、この技術の確立は水素化物超伝導体の探索研究において極めて重要である。昨年度のほとんどは絶縁層の素材や厚み・試料室の穴径、充填手順などの水素封止の最適条件の模索に費やし、それをほぼ決定できたと言える。 2) 80 GPaまで加圧に成功した。水素を元素と共に充填した後、100 GPa程度に加圧して金属化した元素に赤外レーザーを照射して加熱し、元素を水素化させることで合成を行う。しかし、1)において水素充填に成功したものの、加圧中に試料室から水素が噴出してしまうことが問題となった。そこで、冷凍機を用いて低温で加圧することにより、低温加圧中にアンビルが割れ易いという問題が残るものの、試料を80 GPaまで加圧することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述の通り、試料室への水素ガスの充填・加圧保持は極めて難しく、充填の条件をほぼ確立できた本研究は、順調に進んでいると言える。この電極入りのDACに水素充填が可能なグループは国内には他にないと言え、国外でもドイツのグループのみが成功し、他のグループは高温で分解して水素を供給する水素源を使用しており、合成した試料へ不純物混入の懸念がある。この電極導入したDACへの水素充填の技術がほぼ確立したことにより、新しい水素化物の純良な試料を合成し、超伝導体の探索研究が大きく推進できると考えられる。 昨年度は、所属の研究室で充填直前まで準備した電極を導入したDACに共同研究者の中野智志氏により、高圧ガス充填装置で高密度に圧縮された水素ガスを充填してもらった。DACには研究室によって形状の異なるものが存在するため、共同研究開始時は充填装置にDACを取り付けられるように改造を行うなどした。その後、まずは電極の無い状態で水素を充填できる条件を探索し、充填中に水素が試料室より噴出するなどして失敗した場合は、条件を再度検討した。最終的にはDAC内に電極および試料となる元素を導入し、充填条件を探った。また、前述の通り、水素は全元素中で最も小さいため、物質に容易に侵入する。これは絶縁層だけでなく、水素を加圧するダイヤモンドアンビルも同様であり、加圧中に試料室からの水素の噴出だけでなくアンビルも破壊する。アンビルが破壊した場合は、傷が浅ければ再研磨を行い、再使用が難しいものであれば新しいものを使用した。また、測定回数 (試料) を増やすために、3月末にも再度水素充填を行う予定であったが、新型コロナの影響で中止となった。
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Strategy for Future Research Activity |
前述の通り、昨年度は水素充填後に80 GPaまでの加圧に成功した。本年度は4月より引き続き100 GPa以上へ加圧し、SPring-8においてセレンの水素化合物の高温高圧合成とin-situでの放射線XRD測定による結晶構造観察と、電気抵抗測定による超伝導探索を行う予定であったが、現在のところ、新型コロナの影響で実験がストップしている状態である。以下に本年度の具体的な推進方策を示す。 超伝導の探索と結晶構造の解明:水素化合物の合成をラマン分光や放射光XRD測定によって確認し、電気抵抗測定により金属化と超伝導を探索する。昨年度、80 GPaまでの加圧に成功したセレン+水素をSPring-8の高圧ステーションBL10XUに既設のレーザー加熱システムを用いて150 GPaまでの圧力での合成を行い、合成条件を探索する。その際、XRDと電気抵抗測定によるその場観察で、目的の水素化合物が合成できたかを確認した後、DACを冷却して超伝導を探索する。この方法 (室温加圧後、高温高圧合成) で超伝導が見つからない場合、低圧でセレン水素化合物 (H2SeもしくはH3Se) を合成し、加圧する。同族の水素化合物である硫化水素の研究の経験から、高温超伝導相 (high-Tc相: Tc ~ 200 K) への到達のために低温加圧が必要であり、室温で加圧すると別の準安定相 (非金属・非超伝導相であるとされる) に相転移することがわかってきた。そのため、低温での加圧を行い異なる温度-圧力パスでのXRD測定と超伝導の探索を行う。 また、物質・材料研究機構の中野智志氏との共同研究は継続して行われることが決定した。水素充填および加圧方法にはまだ不確定な部分があるため、さらに確度を上げていく。
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Causes of Carryover |
出張費(旅費)を別財源で賄ったため当該助成金が生じた。次年度の出張費、または消耗品で、個数の必要であるダイヤモンドアンビルの購入費に充てる。
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Research Products
(2 results)