2019 Fiscal Year Research-status Report
波紋秩序状態の起源解明および実物質での実現可能性-新たな磁気構造物質の創出-
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19K14665
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Research Institution | Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University |
Principal Investigator |
下川 統久朗 沖縄科学技術大学院大学, 量子理論ユニット, 研究員 (20633853)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フラストレーション / 多重q秩序状態 / スピン液体 |
Outline of Annual Research Achievements |
相互作用が競合するフラストレート磁性体ではしばしば新奇なスピンテクスチャが現れることがある。本研究では次近接相互作用があるハニカム格子反強磁性体の基底状態のリング縮退構造を反映して現れる波紋秩序状態の発現機構の解明および実物質での実現可能性を調べることを目的としている。
本年度は上述の古典ハニカム模型における波紋秩序状態の性質・安定性を古典モンテカルロ法を用いて調べた。その結果波紋秩序状態は次近接相互作用J2,最近接相互作用J1とした時の1/6<J2/J1<0.20という極めて狭いパラメータ領域の有限温度磁場中でしか安定化しないことが明らかになった。また高温側のリング液体相から低温側の波紋秩序相への有限温度相転移はカイラリティの破れと連動していることや波紋秩序状態のスピンテクスチャは誘電分極の渦を生み出すことを明らかにし論文として発表した。また関連してより広いパラメータ領域0.20<J2/J1<0.5では波紋秩序状態とは異なるタイプのスピンテクスチャを持つsingle-q、double-q, triple-q状態を見出し、論文として発表した。
また当初の計画にはなかったものの本年度はS=1/2二層カゴメ格子物質Ca10Cr7O28に関する研究を行った。この物質はごく最近の理論研究からその低温物性が有効的に上述の古典ハニカム格子磁性体で記述できる事が報告されており、本物質は波紋秩序状態の実物質での実現可能性を探る上で重要であると判断したためである。厳密対角化法と熱的純粋状態法を用いた計算を実行したところ、この量子カゴメ格子模型ではリング液体状態が比較的低温で実現していることが明らかになり、最新の実験結果と調和的な結果を得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
概ね予定通りに波紋秩序状態の性質や安定性に関する研究を進める事が出来ただけでなく、当初予定になかった新しい候補物質に関する研究も着実に進められているためである。前半の成果については2本の論文として出版させる事ができ、またこれらの成果を国内外の学会やセミナーを通して発信しており、そこでの議論を経て今後の新たな展開への指針が多数得られていることも理由として挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の順調な研究の進展具合を受けて、次年度はそれをさらに深化させる方向で押し進める。具体的には波紋秩序状態のダイナミクスの研究などに取り組む。またドイツの実験グループと連携しつつ量子二層カゴメ物質Ca10Cr7O28における低温物性を引き続き調べ、今年度得られた成果と合わせて論文としての公表を目指す。
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Causes of Carryover |
大規模データ保管用の外付けHDDが想定より低価格で購入出来たことと、コロナウィルスによる影響により今年度最終月の複数の会議が中止になったためである。
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