2019 Fiscal Year Research-status Report
トポロジカルスピン構造での実空間ベリー位相起源の高効率スピン電荷変換現象の開拓
Project/Area Number |
19K14667
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
横内 智行 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (20823389)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | トポロジー / スキルミオン / ベリー位相 / スピン電荷変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、実空間スピン構造に由来したベリー位相を伝導電子が獲得することで様々な新奇な現象が生じることが明らかになっている。 特に本研究では、「スキルミオン」と呼ばれるトポロジカル磁気構造に由来するベリー位相に着目している。スキルミオンとは、渦上のナノスケールの磁気構造で、強磁性状態といった磁気構造とは異なるトポロジーで特徴づけられる。そして、そのトポロジカルな構造に由来して、スキルミオン上を通過する伝導電子はベリー位相を獲得し、それが仮想的な磁場として作用する。この仮想磁場は、高効率な「スピン電荷変換」を実現する可能性が指摘されている。スピン電荷変換とは、電荷の流れを伴わない角運動量の流れである「純スピン流」と電流との間の変換現象である。そこで、スキルミオンを有する物資において、磁気構造とスピン電荷変換効率の関係性を調べ、スキルミオン由来の仮想磁場による高効率なスピン電荷変換の可能性について検討する。 本年度は、集積イオンビームを用いてスキルミオンを有するバルク物質を微小平板状に加工し、その表面に強磁性薄膜を蒸着することことで、スピン電荷換効率の測定用のデバイスを作成した。そして、スピンポンピングによって純スピン流を注入することで、スピン電流変換に由来する信号の観測に成功した。一方で、当初の予想に反し、スキルミオン相以外でも、ある程度の大きさのスピン電流変換に由来する信号が観測された。このことは、スピン電荷変換の起源が、当初の予想していたスキルミオンのベリー位相由来のものではないことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の予定通り集束イオンビームなどの微細加工技術を駆使することで、スピン電荷換効率の測定のためのデバイスの作成に成功した。そして、スピンポンピングによって純スピン流を注入することで、スキルミオン物質においてスピン電流変換に由来する信号の観測に成功した。 一方で、当初はスキルミオン相でのみスピン電流変換に由来する信号が観測されることを予想していたが、実際はスキルミオン相以外でもある程度の大きさの信号が観測され、その大きさはスキルミオン相とそれ以外の磁気相で大きな違いはなかった。このことは、スピン電荷変換の起源が、当初の予想していたスキルミオンのベリー位相由来のものではないことを示唆している。一方で、その信号は磁場に対する対称性が、従来のスピン電荷変換の機構から予想されるものとは異なることも明らかになった。これらのことは、スキルミオン物質において、従来の機構とは異なるスピン電流変換の機構が存在していることを示唆している。 以上をまとめると、本年度は当初の計画通りに実験を遂行した。測定結果は、当初の予想とは異なるものだったが、新奇な機構の存在が示唆されるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は、スキルミオン物質におけるデバイスの作成とスピン電荷変換由来の信号の測定に成功した。一方で、観測された信号は当初の予想のスキルミオンのベリー位相に由来するものではない可能性が高い。そこで、今後はこの観測されたスピン電荷変換の機構の解明に取り組む。特に、スピン電荷変換効率と抵抗率などとの相関を詳細に調べる。加えて、今回用いたスキルミオン物質以外のスキルミオンを有する物質のデバイス作成および測定も検討する。得られた成果は学会や論文誌で発表することで情報発信にも取り組んでいく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は(1)購入予定の装置を予定より低下価格で購入できたためと、(2)年度末に参加予定だった国際学会のキャンセルがあったため。 当該助成金は、初年度に新たに必要性が明らかになった、微小信号測定装置などの装置の購入に使用する計画である。
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Research Products
(2 results)