2019 Fiscal Year Research-status Report
ニューラルネットワークを利用した高速な第一原理分子動力学法の生命起源研究への適用
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19K14676
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
島村 孝平 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 助教 (60772647)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人工ニューラルネットワーク / 原子間ポテンシャル / 分子動力学法 / 第一原理分子動力学法 / 高速化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の初年度の目標として、長時間の分子動力学(MD)シミュレーションが可能な人工ニューラルネットワーク(ANN)を用いた原子間ポテンシャル(ANN potentialと呼ぶ)の開発を挙げた。 ANN potentialは近年開発が進んでいるデータ駆動型原子間ポテンシャルの一種であり、ANNの万能関数近似性を活用して第一原理MD(FPMD)計算から得られた高精度なデータを学習・模倣させることにより、精度を保ちながらもFPMD計算に比してコストを著しく減らせる。しかしながら、長時間MD計算を行えるANN potentialの構築には課題があった。 学習方法において、FPMD計算から得られたどの物理量を学習させるかに任意性があり、その選択が精度の点で重要になってくる。候補はエネルギー、原子に働く力、圧力の3つの物理量であり、これらを精度良く計算できなければそもそも長時間MD計算はできない。しかし単位や学習対象数が異なるため、等価な学習には工夫が必要となる。加えてこれらの物理量は微分関係で結びつけられ、その関係性を保った制約下での学習が不可欠である。ただし先行研究が極めて少なかったために、具体的な方法を構築する必要がある。我々は何パターンかの学習を試みて妥当な活性化関数等の条件を見出した結果、長時間MD計算を行えるANN potentialの作成に成功した。また、エネルギーと力の2つを学習させれば圧力も一致することを見つけた。エネルギー、力に加えて圧力を学習させると先述したように単位の違い等を緩和させる手段がより複雑になってくる。従ってよりシンプルな方法だと言える。 学習方法に加えて、用意するべきFPMDデータの知見も得た。物理的に重要だが通常のFPMD計算からは得にくい状態が存在しており、学習方法を改善できてもこのような状態を効率的に得る方法を別に考える必要があるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通り、長時間MD計算を可能にするためのANN potentialの学習法の開発を行った。出版された論文がまだ少数であり、まとめている段階であることを踏まえてこの評価としている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施計画通りに,ANN potentialによるMDとFPMDシミュレーションをスイッチングすることで、非平衡過程をも見据えた高速化MD手法の開発に着手したい。計画ではAtomic fingerprintが示す値の違いを利用してこのスイッチングを行う予定であるが、最近提案されたactive learningを利用する手もある。この方法では同じデータを学習させた複数の「重みの初期値が異なる」ANN potentialが使われ、学習済みデータを入力に与えるとすべて同じ出力が得られるが、未学習データを入力すると出力にバラつきができる。すなわちこれらのANN potential集団の出力から分布を作り、この分布の分散によって未学習データを判定できる。前者のAtomic fingerprintの違いを利用した方法よりも強力である可能性があることから活用したいと考えている。また、この方法は多様性のあるFPMD計算データの生成にも利用できる。そのため、先述したような、物理的に不可欠だが通常のFPMD計算では出現しにくい状態のサンプリングが可能か否かを調査したい。
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Causes of Carryover |
研究成果発表のための旅費に使用する計画であったものの、新型コロナウィルス感染拡大の影響のため中止した。翌年度請求額も使用目的は旅費であり、繰り越し額と合わせて、成果発表のために使用したいと考えている。ただし翌年度も学会等の不開催が懸念されるため、その場合はハードディスクなどの記憶媒体の購入費として使用したい。
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