2019 Fiscal Year Research-status Report
情報のスクランブリングに基づく熱化・量子カオスの機構の解明に向けた研究
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19K14724
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
野崎 雅弘 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 基礎科学特別研究員 (20804777)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非平衡 / 量子情報 / ゲージ/重力対応 / 熱化 / スクランブリング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、熱化や量子カオスの非平衡現象を引き起こす、強いスクランブリングの効果を持つダイナミクスの性質を調べている。これまでの研究では、強いスクランブリング効果を持つと期待される、重力双対を持つ場の理論や弱いスクランブリングの効果を持つと期待される場の理論の持つダイナミクスの性質を演算子のエンタングルメントに基づいて調べた。演算子のエンタングルメントとは演算子の双対状態の持つ量子もつれの構造によって定義され、演算子の特徴が反映されている。我々は時間発展演算子のエンタングルメントを調べることで系のダイナミクスの特徴を調べた。この時、エンタングルメントの構造を調べる物理量として相互情報量と対数的ネガティヴィティーを用いて調べた。 これによって、十分に時間が経過した後、任意の入力部分系と出力部分系の相互情報量と対数ネガティヴィティーの相関が失われることが最大の情報のスクランブリングが起きたことを意味することを見出した。これは入力の部分系と出力の部分系の相関が失われてしまうために、情報が送れなくなってしまうためである。重力双対を持ち得る場の理論は強いスクランブリング効果のため、この現象が起こることを見出した。また、三者間の相互情報量を用いて、スクランブリング効果でどれだけの情報が非局在化してしまうかを定量的に調べた。 この結果、スクランブリング効果の殆どない自由場の理論の様な単純な理論におけるダイナミクスは自由粒子の伝搬によって情報が伝搬される準粒子描像を用いて説明できることを見出した。一方で、強いスクランブリング効果を持つ場の理論におけるダイナミクスは張力モデルを用いて説明できることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究で、演算子の量子もつれを用いて、三者間の相互情報量を用いると重力双対を持ち得る場の理論、つまりホログラフィックな場の理論では十分な時間が経過した後では、その情報量が下限を満たすということを発見している。また、これまでの研究では情報のスクランブリングという現象の定量的な定義を一つ与えた。また、弱いスクランブリング効果を持つ場の理論における情報の拡散・伝達のメカニズムを説明する準粒子モデルを考案した。一方で、強いスクランブリング効果を持つ場の理論における情報の伝達・非局在化を説明するモデルとして張力モデルを考案した。これらのモデルを用いて、これらのダイナミクスを詳しく説明できることを確認した。また、強くもなく弱くもないスクランブリング効果を持つ場の理論におけるダイナミクスは説明できないことも確認している。 また、張力モデルはゲージ/重力対応におけるホログラフィック・エンタングルメント・エントロピーの様に曲面の最小化でダイナミクスの特徴を抜き出すことができる。ゲージ/重力対応でも張力モデルでも一次元高い曲面を用いて系のダイナミクスの特徴を抜き出せるが、ゲージ/重力対応では新しい空間次元に伸びる曲面を用いてダイナミクスの特徴をとらえられるが、一方で張力モデルでは曲面が時間方向を加えた一つ高い次元で定義される。この二つの類似性はゲージ/重力対応に従う場の理論のこれまで知られていなかった特徴を明らかにし得るとすると共に、強いスクランブリング効果を持つダイナミクスの特徴が明らかになることも期待される。この様な点から本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では情報のスクランブリングの定量的な定義を与え、時間発展によってどれほどの情報量がスクランブリングされた結果、非局在化されてしまうかを明らかにした。また、強い、そして弱いスクランブリング効果を持つダイナミクスを説明しうる有効モデルを発案した。 今後の研究では、情報がどれだけ非局在化されたかを測定できる量を考案し、スクランブリング現象の特徴を明らかにする。また、これまでの研究では三者間以上の間で共有されている量子情報量を精度よく引き出せる測定量が考案されていないので、この様な測定ができる物理量を考案する。また、近年、複雑性というダイナミクスの特徴がこれまで知られている非平衡現象に関する性質をとらえられると期待されている。この複雑性という物理量は場の理論で実際に計算することは技術的に非常に困難であるが、我々のこれまでの研究で演算子の量子もつれに基づけば、計算が比較的に容易になり、実行可能である。このことから、場の理論で複雑性を捉え得る物理量を実際に場の理論で計算することによって、場の理論におけるスクランブリング現象の特徴を明らかにする。 また、これまでの研究では極限的な場合のスクランブリング効果を捉えた有効モデルを提案してきた。今後はこれまで明らかになったスクランブリング現象の特徴を反映させた、一般的なスクランブリング効果を持ったダイナミクスを有効的に説明できるモデルを考案し、これまで明らかになっていなかった多体系の量子カオスと少数系の量子カオスとの関係、熱化と量子カオスとの関係を明らかにする。これによって、可能であればスクランブリング現象の特徴を捉え得る実験提案を行う。
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Causes of Carryover |
疫病のために次年度使用額が生じてしまった。 来年度の助成金と共に旅費あるいは、計算機周りの機材費として使用する予定である。
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