2020 Fiscal Year Research-status Report
稀少RIリングを用いた未踏核種の精密質量測定による金、白金の起源解明
Project/Area Number |
19K14730
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
向井 もも 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (10823726)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 飛行時間検出器 / 位置検出器 / 質量測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
稀少RIリングでは、核破砕反応等で生成した高エネルギーイオンの質量を精密に決定するために、イオンの飛行時間を数10psの精度で測定する必要がある。同時に、物質通過時のエネルギー広がりに由来する飛行時間広がりを抑えるために、検出器などの通過物質は十分に薄くなくてはならない。稀少RIリングでの未知核種の精密質量測定に向けて、本研究課題では、これらの要求を満たす飛行時間検出器の開発を行ってきた。 検出器は、一枚の二次電子発生用アルミ蒸着マイラー薄膜と複数枚の平行電極、永久磁石、薄膜と同じ平面上に設置したマイクロチャンネルプレート(MCP)検出器で構成した。イオン通過に伴って薄膜から発生した二次電子を、交差電磁場でMCP検出器へ誘導し検出することで、イオン通過のタイミングを検出する。令和元年度に本検出器の開発が完了したため、令和二年度に行われた稀少RIリングのマシン性能評価実験で使用した。安定動作と約90%の検出効率が確認でき、今後は稀少RIリングの実験で使用する予定である。 稀少RIリングの上流ビームラインの焦点面に常時設置している位置検出器の物質量を減らすことや、また別の焦点面に追加の位置検出器を設置することで質量決定精度の改善が期待できる。そのため、本研究課題で開発した飛行時間検出器を応用した位置検出器の開発を進めている。薄膜に対してMCP検出器を90度の位置に設置した場合に生じるイオンビーム通過位置と二次電子輸送時間の相関を利用することでイオン通過位置を測定できる。令和二年度は、プロトタイプの位置検出器の性能試験を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
質量測定に不可欠な飛行時間検出器の開発が令和元年度に完了し、令和二年度より稀少RIリングでの実用を開始した。 現状稀少RIリングでの質量測定では質量値の精度と既知の質量値からのずれが問題となっている。考えられる要因の一つとして、上流ビームラインに設置している位置検出器でのエネルギー損失がある。また先行研究から、従来の位置検出器設置個所とは別の焦点面に追加の位置検出器を設置し、測定した位置や角度の情報を用いることで、ビームの運動量をより正確に補正できる可能性がある。 天体現象の解明に必要な10^-6の精度での質量測定には、速度を10^-4の精度で決める必要がある。 しかし、従来利用されてきた位置検出器は検出ガスと合計数十μmもの薄膜で構成されており、10^-3程度のエネルギー損失が見込まれる。よって、検出器内でのエネルギー損失を抑えつつ設置台数を増やすために、従来の位置検出器に変わる物質量の小さな位置検出器が必須である。 開発した飛行時間検出器の構造を工夫することで原理的に位置検出が可能であるため、上記の目的のために位置検出器の開発を進めている。テスト機は直径45mmの薄膜と薄膜に対して90度の位置に設置した小型のMCP検出器(有効領域直径14.5mm)、複数枚の平行電極、永久磁石で構成した。放射線医学総合研究所で供給される核子当たり200 MeVのKrビームを用いて本番のビームと近いビーム条件での性能評価実験を行った。検出器内の磁場を110, 68ガウスにした過去の実験で、検出器内の磁場を下げるほど、ビームの通過位置と二次電子輸送時間の相関が大きくなり位置分解能が良くなることが示唆されたため、今年度は60, 49, 36ガウスの磁場で性能評価を行った。結果、60~70ガウスが最も性能が良く、有効領域の約8割で90%程度の検出効率と約1.1mmの位置分解能が得られることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの性能評価実験では、小型のMCP検出器を用いて二次電子発生用薄膜の一部分の位置分解能測定を行った。今年度は薄膜全体での位置分解能の試験を行い、実用化に向けて大型化の検討を進める。 まずは有効領域直径14.5mmのMCP検出器を有効領域直径42mmのMCP検出器に置き換える。令和二年度までに行ったテスト機での性能試験では、直径45mmの薄膜に対して、MCP検出器の有効幅14.5mmの範囲でしか二次電子を検出できなかったため、より大きなMCP検出器を用いて薄膜全体での性能評価を行う。試験はこれまでと同様に放射線医学総合研究所で供給される核子当たり200 MeVのKrビームを用いる。薄膜全体での位置分解能・検出効率を評価し、結果に基づいてさらなる改良を行う。並行して、位置検出器の大型化に向けて、大きな薄膜から発生する二次電子を分解能よく検出できるような電場構造、一様な磁場形成が可能な永久磁石の配置などを検討する。
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Causes of Carryover |
上述の通り位置検出器の開発が必要となった。位置検出器で使用する物品購入のために令和二年度の予算を一部令和3年度に繰り越す必要があった。
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