2019 Fiscal Year Research-status Report
低温重力波望遠鏡の鏡懸架系の高感度化に向けた接合の機械的散逸に関する研究
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19K14735
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
牛場 崇文 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (00810805)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 低温工学 / 低温物性 / 重力波検出器 / 熱雑音 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はKAGRAの懸架系の構築に適した、機械的散逸の小さい接合手法を確立し、重力波検出器KAGRAの感度向上に貢献することである。具体的には物体同士の接合(特にサファイア同士の接合)における接合面での機械的散逸の大きさを定量的に測定し、KAGRAに適した接合手法を確立する。 重力波検出器の感度限界を決定する原理的な雑音の一つは、原子の熱振動に起因する雑音(熱雑音)である。この熱雑音の大きさは機械的散逸と呼ばれる系のエネルギーの散逸を表すパラメータの大きさに比例するため、機械的散逸の小さい接合を行うことでKAGRAの懸架系の熱雑音が低減できる。したがって、本研究で種々の接合手法における機械的散逸の大きさを定量的に評価し、適切な手法を用いて重力波検出器KAGRAの鏡懸架系を構築することによって、重力波検出器KAGRAの熱雑音を低減することができる。重力波検出器が重力波を検出する確率は検出器感度の3乗に比例するため、熱雑音低減による検出器の感度の向上によって、多くの重力波イベントを捉えられるようになり、重力波物理学・重力波天文学に大きく貢献可能である。 2019年度は機械的散逸測定のためのセットアップの構築を行った。機械的散逸の測定において最も重要なことは、測定系に散逸を生じさせない方法を用いて測定サンプルを支持することである。本研究ではサンプルとしてサファイアウェハーを用いるため、ウェハーの中心を上下から挟み込む形で支持する支持治具の設計・製作を行った。また、製作した支持治具を用いてサファイアウェハーを支持した状態で治具全体を低温化し、製作した治具の冷却性能の評価を行った。冷却性能試験では治具およびサファイアウェハーを7K以下まで冷却できることを確認した。この温度はKAGRAで使用する温度よりも十分低温であり、本研究の要求値を満たした治具となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度にはサンプル支持治具の製作・性能評価及び実際のサンプルを用いた機械的散逸測定のデモンストレーションを行う予定であった。実際には、2019年末から世界的に大流行している新型コロナウィルスの影響により、2019年度末に行うことを予定していた機械的散逸測定のデモンストレーションは行うことができなかったが、設計した治具の性能評価が終了し、測定に十分な性能が得られていることが確認できた。一方、機械的散逸測定のデモンストレーションができなかった点に関しては、その後に予定していたサファイアウェハーの接合サンプルの製作を前倒しにすることによって、今後の予定に大きな影響を与えることなく実行可能である。 したがって、2019年度の研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス感染症の拡大を防ぐため、不要不急の外出は厳に慎むことが求められている現状においては、実験再開の目途は立っていない。実験再開が可能になり次第当初の計画に沿って逐次研究を遂行していく。 また、当初の計画では設計した新しい治具を用いた機械的散逸のデモンストレーションを行った後に、サファイアウェハーを接合したサンプルの製作・機械的散逸の測定を行う予定であったが、サファイアウェハーの接合サンプルの製作を前倒しで行うことで、実験再開後に速やかに測定が行えるよう準備を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響で実験に遅れが生じたことで、今年度購入予定であった測定装置の発注が来年度へと繰り越された。また、年度末の出張のキャンセルにより旅費として確保していた予算を繰り越す必要があった。 次年度は今年度購入を見送った測定装置の購入の他、測定サンプルの追加購入、サファイアウェハーの接合のための材料購入費等に使用予定である。
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