2019 Fiscal Year Research-status Report
Measurement of antiproton production cross section near the threshold
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19K14747
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
森津 学 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 学振特別研究員 (20760010)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 反陽子 / ミューオン・電子転換 / レプトンフレーバ非保存 / J-PARC |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はミューオン・電子転換探索実験COMETにおける反陽子起因背景事象を抑制し、標準理論を超える新物理の発見に資するものである。COMET実験では一次陽子ビームと標的原子核との反応で生成した反陽子が測定領域まで輸送され信号事象と同じエネルギーの電子を放出する反陽子起因背景事象が存在する。この背景事象はこれまであまり重視されてこなかったが、近年シミュレーションの精度向上により支配的な背景事象となる可能性が指摘されている。現在の見積りの問題点は、COMET実験で用いる8 GeV陽子ビームエネルギーでの反陽子生成断面積の実験データがないために10 GeV以上のデータからの外挿に頼っている点にある。 本研究ではJ-PARCハドロン実験施設に新たに建設されるビームラインを用いて8 GeV近傍における反陽子の生成微分断面積を直接測定する。これによりCOMET実験における反陽子起因背景事象の見積り精度を向上させ、感度向上につなげる。この実験における困難は反陽子より10~100万倍多く生成するパイ中間子との弁別である。そのために、既存の測定器に加えて新たに2層のアクリルチェレンコフ検出器を設置する計画である。 本年度は実験計画の精査を進めシミュレーション環境を構築した。また、検出器の評価をおこなうためのセットアップを整備した。光電子増倍管(PMT)に高電圧を印加するためのHV供給電源や接着用薬剤、遮光シート、反射材などを用意した。過去の実験で用いられたファインメッシュ型のPMTのサンプルを入手し、信号の健全性を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はミューオン・電子転換探索実験COMETにおける反陽子起因背景事象に着目し、独自の分析から背景事象を抑制するための計画を提示するものである。現在の見積りの問題点である反陽子生成断面積の実験データの不足を補うために、新たな実験を提案し8 GeV近傍における反陽子の生成微分断面積を直接測定する。これによりCOMET実験における反陽子起因背景事象の見積り精度を向上させ、実験感度向上が期待される。 本年度は当初計画通りシミュレーションによる実験計画の精査を進め、測定器の試験セットアップを整備した。過去の実験で用いられたファインメッシュPMTが使用可能であることを実証した。これは今後の測定器設計において重要な知見であり、試作機を用いた実証試験に向けて大きく前進した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、まずシミュレーションに基づいて測定手法の有効性を確認し、実験計画を検証する。アクリルチェレンコフ検出器のデ ザインを固めて試作機を製作し、必要であればビーム試験をおこなう。輻射体の厚みや反射材の種類、読出しセンサーなどについて、パイ中間子での検出効率が99%以上となるように最適化をはかる。次に検出器を量産し実機の製作をおこなうと同時に実験提案書を提出する。最終的には測定器の調整運転をおこなった後、反陽子生成断面積測定の本実験をおこなう計画である。 本研究ではCOMET実験で特に重要となると考えられる200~400 MeV/c前後の反陽子の生成微分断面積を測定する。また、8 GeV近傍における反陽子生成断面積の入射エネルギー依存性も測定する。これは、もし8 GeVでの反陽子生成断面積が予想以上に大きい場合には、COMET実験での陽子ビームエネルギーを下げる可能性を検討するためである。まずは実験データの存在する10 GeVの陽子ビームエネルギーで実験を始め、先行実験と比較することで実験の正確性を確認する。その後、7~9 GeVの数点でデータを取得し8 GeV近傍でのエネルギー依存性を測定する。これによりCOMET実験における反陽子起因背景事象の正確な見積りを提供し、実験の高度化につなげる。
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Causes of Carryover |
検出器の試験のためのアクリル輻射体などを購入予定にしていたが、過去の実験で使用したもので代用して今年度は進めることができたため、新規の購入は次年度以降に持ち越すこととした。また、新型コロナウイルス感染症拡大のために3月に予定していた日本物理学会が現地開催中止となり旅費も来年度以降に持ち越すこととした。
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Research Products
(7 results)