2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K14769
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
植田 準子 国立天文台, アルマプロジェクト, 特任助教 (60749935)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 電波天文学 / 銀河形成 / 銀河衝突 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、銀河衝突の末期段階にある銀河に分布するガスの特性から、衝突の影響を受けた銀河の形成・進化経路を観測的に解明することである。当該年度は、昨年度着目した低温・低密度の分子ガスに加えて、分子ガスよりも希薄な中性水素原子(HI)ガスや、シアン化水素分子などの観測により検出される高密度分子ガスに着目した。
合体後の衝突銀河が円盤銀河に進化するシナリオのひとつとして、銀河衝突によって一度銀河の外に放出されたHIガスが、再び銀河に降着して円盤銀河のもとを形成する可能性が考えられている。そこで、電波干渉計「超大型電波干渉計群(JVLA)」で取得されたサンプル銀河のHIガスのデータを収集し、データ解析に着手している。
また、新しい星の材料となる高密度分子ガスのデータを用いて、衝突末期段階にある銀河での星の形成活動を調査した。本課題では、単一鏡型電波望遠鏡で取得したデータや公開データを活用した。加えて、昨年度データ解析した低温・低密度分子ガスのデータも利用した。数値シミュレーションから、銀河衝突が進むにつれて、直ちに星を形成しないガスも含まれている低温・低密度分子ガスが圧縮され、星の材料となる高密度ガスの存在比が増加し、星の形成活動が活発になることが予想されている。そこで、本研究のサンプル、および、衝突初期・中期・後期段階にある銀河サンプルにおける高密度ガスの存在比を求めた。その結果、異なるサンプル間で有意な差は見られず、衝突末期段階の銀河で高密度ガスの存在比が増加していることを示唆する結果は得られなかった。さらに、ある一定の量のガスからどれくらいの星が形成されているかを示すパラメータ(星形成効率)を求めた結果、衝突末期段階の銀河では、衝突初期・中期に比べて数倍効率良く星を形成していることがわかった。これらは、銀河衝突による銀河の形成・進化シナリオを構築する上で有用な情報となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は、衝突末期段階の銀河に分布するHIガスや高密度分子ガスに着目した課題に取り組んだ。計画では、HIガスのデータを用いた課題を中心に進める予定であったが、まだ十分に解析や考察が進んでおらず、やや遅れが生じている。一方、高密度分子ガスに着目した課題は順調に進展した。得られた結果を科学論文にまとめ、投稿準備を進めている。
ただし、当初、高密度分子ガスに焦点を当てた課題では、電波望遠鏡「アルマ望遠鏡」を用いた新規観測プログラムを提案し、新しいデータを取得する計画であった。しかし、新型コロナウィルス感染症の影響を受けて、当該年度はアルマ望遠鏡を運用するアルマ観測所が新規観測プログラムの募集を行わなかった。そのため、単一鏡型電波望遠鏡で取得したデータや公開データを活用して課題に取り組んだ。その結果、銀河の進化経路を左右する活発な星形成活動に関する有用な手がかりを得ることに成功した。しかし、既存のデータからは、サンプル銀河における高密度分子ガスの空間分布までは明らかにすることができない。そのため、次年度中に予定されている観測募集時に、計画していた観測プログラムを提案する。
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Strategy for Future Research Activity |
HIガスによる円盤形成シナリオを検証するために、HIガスのデータ解析を進める。HIガスの観測・解析経験が豊富な研究者からのサポートを得て、データ解析のスピードアップを図る。衝突末期段階の銀河におけるHIガスの分布や運動の特徴を明らかにするとともに、これまで調査してきた分子ガスのデータと合わせて、サンプル銀河におけるガスの物理的性質の導出に取り組む。
また、アルマ望遠鏡の高空間分解能と高感度を利用した高密度分子ガス観測プログラムを提案する。提案書に、当該年度に取り組んだ課題の結果を含めることにより、提案内容を強化することができると考える。プログラムが採択され観測データが取得された場合は、サンプル銀河における高密度分子ガスの空間分布やその存在比を調査する。具体的には、低密度分子ガスの質量(Mgas)に対する高密度分子ガスの質量(Mdense)の比(Mdense/Mgas)の空間分布を求める。もし、銀河の中心領域でのみ質量比が高ければ、中心核付近で集中的に星が形成されている可能性が高く、広がった星の円盤が形成される可能性が低いことが示唆される。
これらの課題から得られた結果を科学論文にまとめ、国内・国際会議で研究成果の発表することを目指す。
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Causes of Carryover |
国内・国際会議がオンライン開催となり、旅費が発生しなかったことが主な理由である。次年度は最終年度であり、これまでに得られた研究結果を科学論文にまとめたり、学会や会議等で発表したりする予定である。次年度使用額は、論文出版費や学会参加のための経費等に使用する予定である。
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