2021 Fiscal Year Research-status Report
探査機「あかつき」と地上望遠鏡で迫る金星雲層構造の新たな姿
Project/Area Number |
19K14786
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Research Institution | Hokkaido Information University |
Principal Investigator |
佐藤 隆雄 北海道情報大学, 経営情報学部, 准教授 (50633509)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 金星 / 雲層構造 / 探査機「あかつき」 / 地上望遠鏡 / 放射伝達 / 微量大気 |
Outline of Annual Research Achievements |
金星は地球の双子星と呼ばれてきたが,この二つの惑星は全く異なる気候進化を遂げた.本年度も昨年度に引き続き,金星の光学的に厚い硫酸雲の雲頂高度付近(約70km)における光化学反応の担い手となる微量大気の時空間分布を把握するため,地上望遠鏡IRTFの高分散分光装置iSHELLで取得した近赤外分光データを用いた研究を実施した.iSHELLのLバンド(3-4μm)モードで観測した金星昼面の反射太陽光スペクトルには,二酸化炭素(CO2),水蒸気(H2O,HDO),塩化水素(HCl)の吸収線が複数含まれており,これに放射伝達モデルを用いた反転解析を行うことで,CO2から雲頂高度が,他の分子から雲頂高度までのカラム量を導出することができる.昨年度確立したiSHELLデータに最適化した大気物理量導出のための反転解析手法を,2018年8月6-7日(東方最大離角付近)と2020年8月18日-20日(西方最大離角付近)に取得したデータに適用し,以下の成果を挙げることができた. まず,雲頂高度は赤道対称構造であり,低緯度帯では約71kmに位置し,高緯度になるに従い下降することが分かった.この結果は,1年目に得られた探査機「あかつき」の2μmカメラ(IR2)の近赤外画像から導出した雲頂高度(Sato et al., 2020)を支持するものである.次に,約70kmにおけるHClの混合比は0.389ppmとなり,先行する地上望遠鏡観測と一致する結果となったが,探査機「Venus Express」の太陽掩蔽観測結果(雲頂高度付近で混合比にして1桁小さい)と反するものである.放射伝達モデル計算で必要となる仮定が結果に与える影響を定量的に評価したが,太陽掩蔽観測結果を再現することは困難であり,両者の違いは,実際のHClの時空間変動を反映しているのではなく,解析手法自体に原因があると考察している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,地上望遠鏡IRTFの高分散分光装置iSHELLで取得した金星の異なる太陽地方時を網羅したデータセットに対して,iSHELLデータに適した反転解析コードを用いることで,金星の雲頂高度とHClの混合比について最終的な結果を得ることができた.ここまでの研究成果については論文投稿準備の最終段階にあり,2022年度の早い時期に投稿可能と考えている.以上から,研究は概ね順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
2,3年目に手掛けた金星大気の高分散分光データから導出した雲頂高度におけるHClの混合比は,これまでの地上望遠鏡(天底)観測結果を支持する結果であったが,探査機による太陽掩蔽観測から得られた結果とは著しく異なるものであった.この原因は,金星のようなエアロゾルの厚い大気における太陽掩蔽観測データの解析手法自体にあると考えており,この仮説が正しいかどうか放射伝達モデルを用いて評価する研究を実施する予定である.
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Causes of Carryover |
世界的な新型コロナウイルス感染症に目途が立たず,対面による研究打ち合わせが困難となり,国内・国際学会がオンライン開催となったことにより,計上していた旅費の使用が不可能となったためである.次年度は対面で行われる学会もあるため,これに必要となる旅費や論文投稿に関連した英文校正で経費を使用する予定である.
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Research Products
(6 results)