2019 Fiscal Year Research-status Report
駿河湾における「有効拡散」の定量化とその湾内深層循環に与える影響の評価
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19K14792
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永井 平 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (60834489)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 乱流(有効拡散)パラメタリゼーション / 数値実験 / 乱流直接観測 / 駿河湾 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、2019年8月にインドネシア多島海で深海乱流計(VMP-5500/VMP-X)を用いた乱流直接観測を実施する機会が訪れたため、観測をベースに海洋乱流の基本性質について議論を行った。今回の観測では、インドネシアのスラウェシ海、マカッサル海峡を対象海域とし、インドネシア技術評価応用庁 (BPPT) の研究船 Baruna Jaya IV を用いて観測を実施した。観測から得られた乱流強度分布と、数値実験を用いてパラメタライズされた乱流強度分布とを比較することで、既存の乱流パラメタリゼーションの妥当性を検証した結果、既存の乱流パラメタリゼーションは、特に深海の成層が弱い場所で乱流を過大評価してしまうことが明らかになった。さらに、上記の観測から得られた乱流強度分布をモデルに組み込んだ数値シミュレーションを行うことで、深海乱流の海洋場への影響を調べた。その結果、インドネシア多島海域では海底近くで混合された水塊が季節風の影響により海面まで持ち上げられることで、広範囲の海面水温を著しく低下させることが明らかとなった。乱流の基本性質は海域に大きく依存せず、また、この一連の「乱流のパラメタライズ 手法」や、「乱流の海洋場への影響」に関する議論は一般性を保っているため、観測を行ったインドネシア多島海域に限らず本研究対象である駿河湾にも応用可能なものである。 これらの研究成果について、2編の国際誌に発表し、3件の国際学会、および1件の国内学会で発表を行った。特に2020年の「Ocean Science Meeting」ではインドネシア多島海南部の狭い海峡における潮汐混合とエクマン輸送の複合効果について招待講演を行い、世界中の乱流研究者から注目を集めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要でも述べたように、今年度はインドネシア多島海で乱流観測を実施し、観測を中心に海洋乱流の基本性質について議論を行った。観測前準備として観測点選定のための数値実験や、観測後に取得した乱流データの解析作業に予想以上に時間がかかってしまったため、当初今年度に予定していたLESを用いた駿河湾を対象とした数値シミュレーションの実施が遅れてしまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今年度にインドネシア海域観測から得られた乱流の基本性質に関する知見についてさらに数値シミュレーションを実施し、本研究の対象海域である駿河湾に適用できるように比較・検討を重ねる予定である。 また、これまでの研究から明らかとなった既存の乱流パラメタリゼーションの問題点を踏まえて、今後は、大型計算機を用いて海洋微細構造をより正確に再現可能な数値実験(LES)を実施し、それに基づく有効拡散係数の定式化を実施することで、さらに研究を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
現在までの進捗状況でも述べたように、本年度に実施したインドネシア多島海での乱流観測にかかる数値実験やデータの解析に予想以上に時間がかかってしまったため、今年度に予定していたLESを用いた数値実験の実施が計画よりも遅れてしまった。そのため、大型計算機使用料として確保していた予算の一部を次年度使用額として計上し、2020年に実施する数値実験のための大型計算機使用料として使用する予定である。
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