2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K14802
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Research Institution | Kitami Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐藤 和敏 北見工業大学, 工学部, 助教 (60771946)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 北極 / 南極 / データ同化 / ラジオゾンデ / ハリケーン / TIGGE |
Outline of Annual Research Achievements |
海洋研究開発機構で独自に開発されたデータ同化システムや大気大循環予報モデルを使用して、両極で取得した大気鉛直観測データが天気予報の精度に与える影響を調べる予報可能性研究を実施した。1年目の研究では、南極や北極の観測データが南半球や北半球で発生する大気現象の予報精度への影響に着目した事例解析を行った。また、現業の予報センターが公開している予報モデルデータを使用し、予報が難しい大気現象の特定を行った。 南極の観測データについては、日本の南極観測船(砕氷艦)「しらせ」や南極大陸観測所の「ドームふじ」で2017年~2018年の夏季にラジオゾンデ観測で取得した高層気象観測データに着目した。これらの観測を実施することで、天気予報に使用される初期大気状態が改善され、南極大陸に接近する低気圧の風速や進路予報が改善されることがわかった。また、現業の予報センターでこれらの観測データを取り込んでいる予報モデルと取り込んでいない予報モデルの予報結果を比較したところ、現業の予報モデルでも高層気象観測の有無で予報精度に差があり、南極でのラジオゾンデ観測は現業の予報モデルの予報精度の向上にも有効である可能性を示した。 北極の観測データについては、海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」が2017年8~9月に太平洋側北極海で取得したラジオゾンデによる高層気象観測データに着目した。これらの観測を実施することで、アメリカに大きな被害をもたらす大西洋のハリケーンの予報精度を向上させていることがわかった。また、観測期間が十分長いとほぼ全てのハリケーンの予報精度に影響しているが、観測初期には特定のハリケーンの予報精度の向上にしか貢献していないことがわかった。さらに、現業の予報センターが公開している予報データを使用し、上空の強い風の影響を受けるハリケーンは、受けない場合より進路予報が難しくなることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
データ同化システムを使用した研究の進捗状況は順調である。南極の観測データを使用した研究については、英語でまとめた論文が査読付き国際誌で出版され(Sato et al. 2020 AAS)、プレスリリースを行った(EurekAlert!: 2019年09月20日)。また、これらの研究は、極域から中緯度における数時間から季節スケールの気象予測の精度向上を目指すプロジェクト(極域予測プロジェクト:PPP)で今後実施が予定されている集中観測に先立った研究成果であることから、国際的にも高い評価を受けている。 北極海の観測データを使用した研究については、英語の論文としてまとめ、国際誌に現在投稿中である。この研究では、北極での高層気象観測が中緯度のハリケーンの予報精度を改善している可能性を示しただけでなく、現業の気象予報モデルでハリケーンの予報精度が悪くなる条件を特定することができた。また、この研究とこれまでの研究を踏まえ、アジア領域、欧州領域それぞれの予報精度を向上させるのに効率の良い北極海領域を特定することができた。 データ同化実験に用いるための観測データを取得するため、2019年10月に「みらい」による北極航海に首席研究員として乗船し、ラジオゾンデや雲観測を実施した。この観測では、秋の高層気象観測が中緯度の天気予報の精度に影響しているのか議論するための観測データを取得することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2017~2019年は極域予測年と設定され、両極の既存の観測所や観測船を用いた大気や海洋の集中観測が実施された。今後はこれらの気象観測データを用いて、他の中緯度領域の天気予報の精度へ与える影響を調べる。 北極では、2018年に数回の集中観測が実施されている。2018年7~9月は、2回目の集中観測期間として設定され、大西洋側北極海でドイツの「Polarstern」や韓国の「Araon」などの観測船によるラジオゾンデ観測が実施されている。この観測データが日本やアジアに接近する台風の予報精度の向上に貢献しているのか明らかにする。また、2019年10月の北極海では、日本の「みらい」とドイツの「Polarstern」によるラジオゾンデ観測が実施されており、中緯度の大気現象の予報精度への影響を調べる。南極でも、北極と同じように南極大陸での集中観測が実施されている。北極と同じようにこれらの観測データが南半球の天気予報の精度に影響しているのか調べ、予報精度向上に効率の良い領域を特定する。
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Causes of Carryover |
論文の出版が間に合わなかったため、翌年度分に出版費用として支払う予定である。
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Research Products
(5 results)