2019 Fiscal Year Research-status Report
Soil water measurements with cosmic-ray showers for better correction of gravity data at active volcanoes
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19K14810
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西山 竜一 東京大学, 地震研究所, 助教 (10835101)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 重力 / 宇宙線 / 地下水 / 火山 / 電磁カスケード |
Outline of Annual Research Achievements |
火山地域で得られた重力の時系列データを調べると,降雨に追随した変動が見られることがある.これは,雨水の質量による万有引力の効果を重力計が受けるためである.このような地下水擾乱の効果を正しく補正しなければ,マグマの質量移動を正しく議論できない.宇宙線に含まれる電磁成分(電子・陽電子・ガンマ線の総称)は,ミュオンと比べると物質の貫通能は乏しいものの,その分,地下水による僅かな質量変動に応じて大きく減衰されることが期待されるため,土壌水分量の測定が可能で,雨水擾乱の補正に効果的である.このアイデアは2010年頃に提案され,小型検出器(有効面積0.1平米)と水深を変えることができる小型プールを用いた実証試験によって実現可能性が確認された.また宇宙線検出器は,桜島の有村観測坑道(国土交通省)に移され,断続的に観測が続けられていた. そこで2019年度は,桜島の電磁成分検出器(有効面積1平米)を再稼働させ,絶対重力計による連続測定と並行させる形でデータ取得・解析を行った.まず,雨量の比較的少ない時期のデータを見ると,電磁成分の到来頻度(強度)と観測点での大気圧に明確な負の相関が認められた(係数:-0.106±0.005 %/hPa).気圧の変動は,我々の関心があるところの土壌水分量とは無関係であるため,地表での大気圧データを用いて大気減衰の効果を補正する方法を確立した.このような補正を,これまでの取得データ(2014-2020年のうち実際に稼働した約1000日分)に適用した結果,電磁成分の強度は,12時間降雨量に対して負の応答を示し,その変化率は-0.076±0.013 %/cmであることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
宇宙線電磁成分の変動は,これまで主に水タンクを用いた室内試験により確かめられていた.2019年度の新たな成果として,実際の降雨に伴う応答を定量的に測定できたことは大きな進展である.一方で,その応答は予想していたよりも小さいことが分かり,より大きな応答が期待される別地点に宇宙線検出器を移し,さらなる原理実証試験を行う必要が生じてきた.本研究課題は半導体光検出器を用いた新型の宇宙線電磁成分計を製作することを含んでいたが,土壌水分量測定の原理実証が完了するまで,設計要件が定まらないため,その点で製作は遅れている.
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Strategy for Future Research Activity |
2019年6月28日~7月3日に起こった南九州地方での豪雨(降水量は合計約600 mm)時の観測データを調べたところ,絶対重力計による重力値は5マイクロgal程度減少の後,数日で上昇に転じるという降雨による擾乱のパターンが検出された.一方で,大気減衰の効果を補正した電磁成分データを見ると,変動量が小さすぎるために坑道上の土壌水分量をリアルタイムで捉えることはできなかった.これは,電磁成分検出器の設置された坑道の土被りが薄く(1 m程度),雨水がすぐに地下へ流れてしまったために,電磁成分強度の有意な減衰が見られなかったからであると考えられる.そこで,降水による土壌水分変化のよりよい実証試験を行うために,検出器を土被りの分厚い他の地点に移設することを予定している.観測は2020年度のなるべく早い時期に開始し,降雨量の多い夏季のデータを取得する.この実証試験観測によって,土壌水分の定量的計測のために必要な検出器の仕様を確定させ,新しい検出器の制作に2020年度後半から取り組む. 一方で,有村観測坑道で降水による電磁成分強度変化が予想よりも小さかったということは失敗に見えるが,その事実自体が,坑道上の土被りの水文学的性質(空隙率,透水係数,あるいは両者がカップルした量)を反映している可能性がある.別地点での実証試験観測と並行して,初年度に測定した豪雨時の重力データ・地下水位データ,気象データと,電磁成分計の時系列データを組み合わせて解釈し,同地の水文学的なモデルを構築する研究にとりかかる.
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Causes of Carryover |
当初は2019年度に新型宇宙線検出器を製作するためのすべての物品を購入する予定であったが,年度初めから開始した実証試験観測により,既存の検出器をそのまま拡張するだけでは土壌水分量の定量的測定に至らないことが分かった.そのため2019年度は電子回路部品のみ購入し,シンチレーター・光半導体検出器については,別地点での実証観測試験の結果を待ってから購入することにした.
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Research Products
(2 results)