2019 Fiscal Year Research-status Report
岩石の変成温度圧力と被熱時間を知る: 炭質物の結晶構造進化からのアプローチ
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19K14821
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
中村 佳博 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (60803905)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 炭質物 / グラファイト / 反応速度実験 / 顕微ラマン分光分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,岩石中に普遍的に含まれる「炭質物」を利用した新しいアレーニウス型温度圧力速度計の構築と地質構造発達史への応用を目指して研究を実施している.この目的達成のためこれまで 1) 野外地質調査と2)高温高圧実験による炭質物結晶構造進化の反応速度定数・活性化体積の決定に関する研究を行ってきた. 1)の野外地質調査に関しては,これまで150日以上の野外地質調査を実施し,600試料以上の岩石試料を採取した.そして100試料以上の泥質岩試料中の炭質物結晶度を顕微ラマン分光装置にて分析した.縦20km×幅10kmの面積で高精度な変成温度構造を測定することで従来高角に地質構造が変化すると考えられてきた大鹿村の広域的な地質構造が,実は低角なナップ構造によって白亜紀付加体の構造上位に秩父付加体が衝上していることを突き止めた.従来伊豆弧の衝突によってめくれ上がった構造があると考えられてきた地域であるが,炭質物による高精度分析を実施することで,従来とは全く異なる低角な地質構造発達史を構築することができた. 2)高温高圧実験に関しては,これまで実施してきた活性化エネルギーおよび活性化体積を求める実験成果をまとめ国際誌への投稿を行った.そして査読の結果追加実験が必要であることが判明し,3回の追加実験の結果従来のデータに大きな相違がないことを確認した.最終的には追加実験の成果が認められ2020年2月にContributions to Mineralogy and Petrologyにアクセプトされた.サファイアアンビルセルによる高温高圧実験に関しては,今年度新たに顕微ラマン分光装置を購入するための申請及び準備を重点的に実施した.設置されたのが2020年3月末であるためまだ本格的な実験は実施できていない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで他大学で実施してきた顕微ラマン分光装置による炭質物の分析を産総研内で実施できるように,大型予算の申請・装置選定を行い今年度末に顕微ラマン分光装置を納入することに成功した.この装置の納入によって,本研究は大幅に進展した.当初作成予定の顕微分光装置や小型分光器は,顕微ラマン分光装置の顕微鏡と高精度分光器・検出器で代用できるため,顕微ラマン分光装置を用いてルビー蛍光の測定を実施する.また有機物の蛍光分析に関しても顕微ラマン分光装置を利用して分光可能なシステムを現在構築中である. サファイアアンビルセル(SAC)を用いた加熱実験に関しても,本装置を用いて分析できるように現在セッティング中である.特に今回はsCMOS検出器を導入したため,従来のCCD検出器より高感度かつノイズレベルは大幅に削減されている一方で,初めて導入される機器であったため調整に手間取っている.2020年中頃までには顕微ラマン分光装置の調整を行い,本格的な分析を実施していく. 野外地質調査に関してこれまで150日以上調査を実施したことによって大鹿村地域全域の広範囲な地質図を作成することができた.この地質図をベースに大量の泥質岩試料を採取し,現在炭質物の結晶構造を随時分析中である.今後さらに分析を追加し,一部のサンプルからは有機物を抽出する予定である.そしてサファイアアンビルセルにて加熱実験を実施し,天然試料と実験での炭質物結晶構造進化の違いに関して議論をおこなう.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は顕微ラマン分光装置の立ち上げを最優先事項として実施する.コロナ禍の影響によって野外調査が実施できるか不明であるため,具体的な調査計画を立てることが困難である.そのため室内分析に特に重点を置いて実施する.顕微ラマン分光装置で各種多様な分光分析を実施するためのオプションを自作で作成して設置する.具体的には1) 顕微蛍光ユニット 2) 顕微反射率測定ユニットの2つである. 熟成度の低い有機物の場合,励起レーザーからの蛍光が原因で顕微ラマン分光分析が困難になることが広く知られている.この蛍光がどのような有機物組成から起因しているのかを判別するために,UV光源をラマンユニットに追加する.このユニットによって顕微蛍光分析が可能になり蛍光の帰属が明らかになれば,適切な励起レーザーの選択や別手法の検討が可能になる.さらにカメラポートからY分岐ファイバーを挿入し顕微反射率測定ユニットを追加する.これまで顕微ラマン分光装置とビトリナイト反射率測定の反射顕微鏡は別々の装置を用いて実施されてきた.本研究では,同一装置で分析が可能になるユニットを自作することで,同じ分析スポットで2つの情報を得ることを目的に顕微鏡を改造する.現在主要な装置(安定化タングステン光源・光検出器・Y分岐ファイバー)を購入し,調整を行っている.今後顕微ラマン分光装置の鏡筒部にファイバーを接続し,ビトリナイト反射率測定用に標準試料で反射率補正を行う.最終的には,サファイアアンビルセルにて実験を行う際に,反射率とラマンスペクトルが同時に取得できるように装置開発を目指す.
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Research Products
(5 results)