2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K14839
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保 淳 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (40760335)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ゴム / 破壊力学 / き裂進展 / 有限要素法 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゴム材料のき裂進展における「速度ジャンプ」現象(外力負荷の強さがある閾値を超えた際にき裂進展が劇的に加速される現象)に着目し,有限要素法(FEM)解析を実施した.伸長した短冊状の試験片に予き裂を導入し,定常的に進展するき裂の進展速度を算出した.伸長量(ひずみ負荷量)を様々に変化させて同様の解析を実施することで,外力(ひずみ)負荷量とき裂進展速度の関係および速度ジャンプ点(速度ジャンプの閾値となるひずみ負荷量)を評価した.特に,今年度は線形弾性および単一緩和時間の粘弾性モデルにフォーカスし,材料の力学特性と速度ジャンプ点の相関性についての検討をおこなった.具体的には,線形粘弾性の緩和時間(時定数)や,ゴム状態・ガラス状態の弾性率比といった力学パラメータを変化させてき裂進展のFEM解析を実施し,それらの材料パラメータの関数として速度ジャンプ点の評価をおこなった.速度ジャンプ点を高ひずみ側に位置する材料ほど製品としての寿命が延びることが経験的に知られていることから,本解析で得られた知見はゴム製品の長寿命化のための指針を与えることができると期待される. また,き裂進展のFEM解析と並行して,材料特性から速度ジャンプ点を簡便に予測するための理論モデルの構築を進めた.FEM解析により得られていたき裂先端近傍の応力場・ひずみ場およびき裂先端要素の応力・ひずみの時間変化の挙動を基に,「き裂進展速度と伸長量(ひずみ負荷量)の関係」を概算するモデルを確立した.本モデルにより,直接的にき裂進展のFEMシミュレーションを実施しなくても速度ジャンプ点を大まかに見積もることが可能であり,材料評価の簡便な指針を与えると期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず,き裂進展のFEM解析については概ね予定どおり進んでいるが,一部の計算が完了していない.本研究のFEM解析においては,速度ジャンプ点と粘弾性パラメータとの関連を明らかにするために,物性パラメータを様々に変化させ,その各々に対してき裂進展シミュレーションを実施する.また,速度ジャンプ点を評価するためには,一種類の材料パラメータにつき複数のひずみで亀裂進展シミュレーションを行うことが必要となる.それゆえにシミュレーションの試行回数が膨大となるため,初年度終了の段階では一部の解析が完了していない. 一方,速度ジャンプ現象の理論モデル構築に関しては予定よりも早く進んでいる.き裂先端の力学挙動(応力・ひずみの時間変化など)から速度ジャンプ点を予測するための理論の構築を前倒しして実施し,既に理論の根幹部分の定式化を完了した. FEM解析・理論モデル構築の両課題とも,提案した計画に沿って進行しており,計画そのものの変更を迫るような本質的な困難には直面していない.以上を総合すると,本研究は概ね順調に進行しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
現在進めているFEMによるき裂進展シミュレーションを引き続き実施し,き裂進展速度ジャンプ点と粘弾性特性の関係について検討する.線形弾性および単一緩和時間の粘弾性モデルを用いて力学特性パラメータの関数として速度ジャンプ点を評価する.その後,線形弾性・単一緩和時間の力学モデルを,非線形弾性・多緩和時間のモデルに変更し,同様のき裂進展解析を実施する.得られた結果をもとに,速度ジャンプ点を高エネルギー化(タフ化)するための材料設計指針を提案する.また,以上のFEMシミュレーションを実施するにあたり,膨大な試行回数となるシミュレーションに対処するため,入出力データの処理を効率化するための方法を検討する. き裂進展のFEMシミュレーションと並行して,理論モデルの適用および妥当性評価を行う.構築した理論モデルは,「き裂先端近傍における力学挙動」を入力として「き裂進展速度と外力(ひずみ)負荷量の関係」を出力する.得られたき裂進展速度と外力負荷量の関係より,速度ジャンプ点を評価することができる.入力となる力学挙動は,FEMシミュレーションまたは線形粘弾性体の力学モデル(Maxwellモデル,Zenerモデルなど)の解析に基づいて与える.まず,理論モデルの妥当性評価のため,FEMシミュレーションで得られた力学挙動を理論モデルへの入力として与え,得られた速度ジャンプ点がFEMシミュレーションによる結果と一致するかを確認する.妥当性を確認したのち,入力となる力学特性が速度ジャンプ点に及ぼす影響を数値的・解析的に精査することで,速度ジャンプ点を改善(タフ化)するために求められる力学特性を明らかにする.
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Research Products
(1 results)