2019 Fiscal Year Research-status Report
疲労損傷のマルチスケール的観察が結びつける転位-塑性変形-き裂関係
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19K14853
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
吉中 奎貴 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 研究員 (00825341)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 疲労 / 転位 / 微視組織 / き裂 / 塑性変形 |
Outline of Annual Research Achievements |
拡張転位すべりを素過程とした種々の塑性変形モードを示す高Mn鋼に対して疲労試験を実施し、破面解析と破面直下組織の分析を行い、き裂近傍における塑性変形組織の発達状況をき裂進展方向に沿って調査した。その結果、破壊起点近傍においてはγ-オーステナイトが変態することによるε-マルテンサイトが発生していた。ε-マルテンサイトの形成についてはシュミット因子によりよく整理できた。一方、き裂から離れた破面上にストライエーションが見られるような領域ではε-マルテンサイトはほとんど見られなかった。本研究成果については(F. Yoshinaka et al., Int J Fatigue 129(2019)105224)で論文化した。 また、上述した研究に用いた材料よりも容易にε-マルテンサイト変態を生じる高Mn鋼に対し疲労試験を実施すると、疲労破面は非常に結晶学的な形状を呈した。そこで、疲労破面の三次元形状を計量したところ、すべり面同士がなす角度によりよく特徴づけることが可能であった。本研究成果については(F. Yoshinaka et al., Int J Fatigue 130(2020)105271)で論文化した。 これらの研究は疲労メカニズムにおける塑性変形とき裂の間の関係を明らかにした点で意義深い。高Mn鋼における塑性変形メカニズムは合金成分との相関が指摘されており、塑性変形と疲労挙動の関係を明らかにしたことは、本研究課題で目的とする耐疲労特性を獲得するための材料設計指針の構築に向けても重要な結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記載した計画通りに破面解析とEBSD測定および三次元形状測定を組み合わせることでき裂進展経路と塑性変形の関係を得ることができた。ただし、き裂進展速度といったき裂の量的特徴と塑性変形の関係については今後き裂進展観察も実施することで明らかにする必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は破断後の試料を対象にした解析によりき裂と塑性変形の関係を明らかにしたが、疲労メカニズムの詳細を明らかにするためにはき裂発生および進展過程を経時的に測定し、これと塑性変形あるいは転位挙動の関係を調べる必要がある。そこで、今後は疲労き裂進展過程やすべり帯の発達過程をデジタルマイクロスコープ等により測定し、微視組織との関係を調査する。特に、き裂進展速度や屈曲・停留と塑性変形組織の関係に着目して研究を進める。また、転位挙動を測定するための方法としてTEM内での引張試験手法を構築する。特に、高Mn鋼において疲労破壊起点としてファセットと呼ばれる平坦面が観察され、双晶界面やγ/ε界面がファセット形成個所となっている可能性があるから、これらのような特徴的な界面を含むように試験片を切り出し、その近傍における転位挙動を調査する。
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Causes of Carryover |
2019年度はその他の費用として計上していた試験片加工費について自らで加工を行ったため経費がかからなかった。また、試験機の改造費についても別途対応したため、その他の費用が当初より少なくなっている。一方、TEM内引張試験については本年度より計画を早めて検討を進めることができた。そのため、次年度より本格的に試験を行うが、この実験では試験片加工からTEM測定まで設備利用費として1試験当たり15万円程度を要する。研究加速を図るうえで、2020年度は計画時よりも多数回の試験を行うため、次年度使用額をTEM内引張試験費用に充てる。
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