2020 Fiscal Year Research-status Report
疲労損傷のマルチスケール的観察が結びつける転位-塑性変形-き裂関係
Project/Area Number |
19K14853
|
Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
吉中 奎貴 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 研究員 (00825341)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 疲労 / き裂 / 塑性変形 / 微視組織 / 合金開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で対象とする疲労特性に加え良好な凝固特性も併せ持つ合金設計を試みることで、施工性に優れた実用的な新材料開発を行った。既開発鋼であるFe-15Mn-10Cr-8Ni-4Siを始点とし、凝固特性に大きくかかわるCr/Ni比を系統的に変化させた合金群を試作した。その結果、Cr/Ni比をわずかに増加させることで凝固モードが変化し、高温割れ感受性が改善されることが明らかとなった。また、Cr/Ni比を微量増加させた新鋼材は既開発鋼と同等の優れた疲労特性を示し、耐疲労特性と溶接性を兼備する鋼材を開発することができた。一方、Cr/Ni比が過度に大きくなると疲労寿命が低下することが明らかとなった。 本研究課題の中核をなす塑性変形-き裂関係の観点からCr/Ni比の増加による寿命低下メカニズムを調査した。その結果、Cr/Ni比が大きい材料では塑性変形モードとして、γ→ε→α'2段マルテンサイト変態の頻度が高まることを見出した。γ→ε-マルテンサイト変態については疲労サイクル中の荷重反転により可逆的な変態を生じることにより疲労損傷の蓄積を抑制する。一方、α'-マルンテンサイトは逆変態を生じず、疲労サイクルにおける不可逆成分として働くことで疲労損傷の蓄積の原因となると結論した。 本研究成果は(F. Yoshinaka, T. Sawaguchi. S. Takamori, T. Nakamura, G. Arakane, Y. Inoue, S. Motomura, A. Kushibe, Development of ferrous-based weldable seismic damping alloy with prolonged plastic fatigue life, Scripta Mater, 197 (2021) 113815)として発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究成果はすでに合金設計指針の構築に結びついており、実際に優れた特性を有する新合金を開発できている。本合金は実用化を強く念頭に置いて設計されたものであり、本研究成果は社会実装に直結するものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は本研究構想の最終目的として位置付けている耐疲労合金設計に取り組み始めており、実際に優れた新合金を開発できた。一方、耐疲労メカニズムの詳細は必ずしも明らかではなく、合金設計指針の信頼性を高めるためには疲労プロセス中のき裂-塑性変形関係を経時的に調べることで、変形組織がき裂進展に与える影響を定量化することが求められる。 そこで、き裂進展過程のデジタルマイクロスコープによるその場観察を行うとともに、き裂周縁組織のEBSD測定を行う。これまでの合金設計指針に基づき、モデル材として長疲労寿命鋼と短疲労寿命鋼を作成し、微小き裂の進展速度と経路をその場観察により取得する。き裂周縁の変形組織をEBSDにより測定し、き裂進展速度-経路-マルテンサイトの関係を明確化し、マルテンサイト量により化学成分と疲労寿命とを結合することで、耐疲労合金設計指針を量的に示す。
|
Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルスの影響による出張の取りやめにより旅費として計上していた予算支出がなかった。また材料を内製することによりその他の費用を当初より圧縮した。2021年度は2020年度に開発した鋼材におけるき裂進展過程の詳細を調べるが、これに用いる試験片は特殊な加工を要し1本あたり12万円程度要する。2020年度未使用額を試験片加工費に充てることで試験データ数を稼ぎ、耐疲労合金設計指針を高精度化する。
|