2019 Fiscal Year Research-status Report
Establishment of olfactory augmentation technologies: Development of olfactory modulator that can enhance human olfactory selectivity
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19K14947
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松倉 悠 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (60808757)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 嗅覚 / 身体拡張 / バーチャルリアリティ / 感性情報学 |
Outline of Annual Research Achievements |
人間の運動能力や感覚を増強する「身体拡張」の研究が行われている。嗅覚に関する身体拡張の研究例はほとんど存在しないが,人間の嗅覚を増強できれば様々な可能性が開ける。本研究では,嗅覚に関する身体拡張技術の確立を目指し,人間の匂い知覚を変調する装置を開発する。また,開発した装置を利用して,人間の匂い識別能力を向上することを試みる。ユーザが鼻腔に吸引する空気をトラップし,特性の異なる複数の吸着剤を用い,物性の異なる匂い分子群をそれぞれ捕集する。複数の吸着剤から加熱脱着して得た匂い蒸気の混合比を変えれば,元の匂いと異なる匂いを提示できる。嗅ぎたい匂いを強調すれば,匂い識別を容易にすることも可能となる。 本年度は,匂い変調器を試作した。変調の対象として,バニリンとイソ吉草酸を選定した。これらの化学物質は,単体ではそれぞれバニラと汗の匂いに感じられるが,混合するとチョコレートの匂いになる。そこで,チョコレート臭をバニラと汗の匂いに分離できるか試みた。モレキュラーシーブは,結晶中に微細な細孔を持つ吸着剤であり,細孔のサイズにより吸着させる化学物質を選択できる。吸着口径の異なるモレキュラーシーブを2種用意して,別々のセルに収める。匂いを吸着口径が小さいモレキュラーシーブに流した後,続けて吸着口径が大きいモレキュラーシーブに流し,匂いを分離する構成となっている。今後,ガスセンサを用いて吸着効率を確認する実験を行ない,物質ごとの吸着率の違いを確認する。また,匂い変調の別の手段として,温湿度を変更した空気を提示することで匂いの感じ方を変化させることも試みた。乾燥した温冷空気と加湿した温冷空気を任意の比率で混ぜ合わせ,所望の温湿度の空気を作り出して匂いを提示するシステムを開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度は,次年度以降に行う実験に備え,必要な装置を試作することを計画していた。これまでのところ,研究実施計画をおおむね予定通りに遂行できている。予備的な実験を行った結果,期待した程の匂い分離性能が得られなかったため,匂い変調器に使用する吸着剤の種類の選定は再考する必要がある。しかし,試作した匂い変調器を使えば,吸着剤の種類を変更し,様々な匂いに対して実験を行うことができる。また,吸着剤を用いた匂いの分離の他に,温湿度を変更した空気を提示して匂いの知覚を変調する手法も,当初の研究を遂行する過程で新たに考案し,実験を始めた。匂いの吸脱着には10分程度の時間を要するが,新たに考案した手法で空気の温湿度を変更するのは数十秒程度でできるため,高速に匂いの変調が可能になる。ただし,匂いを呈する物質そのものを変化させるわけではないため,吸着剤を用いた変調器に比べて効果が限定的である。両装置には一長一短があり,応用先によって使い分けが可能であるため,今後,並行して開発を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
どのような分子がどのような匂いを呈するか,その対応は完全には解明されていない。しかし,ベンゼン環を持つ分子は概ねフルーツ様の匂いを持つ。酸性の分子は酸っぱい匂いを持ち,分子量が小さく揮発性が高い分子は軽やかな匂いを持つものが多いなど,ある程度の規則性がある。そこで,フルーツや花,食品などの香料を用意し,様々なガス捕集剤に対する匂いの吸着特性を調べる。本年度よりも多くの種類の吸着剤を用意し,本年度試作した装置を用いて,様々な匂いに対して吸脱着する実験を行い,吸着剤の候補を絞り込む。また,モルキュラインプリント(吸着膜に測定対象の分子の鋳型を作る技術)などを取り入れ,特定の匂い物質用の吸着剤を自作することも試みる。 装置の小型化や匂い提示の高速化に向けた取り組みも開始する。人間の呼吸周期に合わせて素早く匂い提示ができるようにすることを目指す。50ナノメートルから1.5マイクロメートル程度の直径の細孔(ナノカラム)を持つポーラスアルミナやポーラスアルミを基材とし,様々な吸着剤を用意する。ガス分子が吸着剤に吸着すると,エネルギー的に安定な状態になり,熱エネルギーが放出される。逆に熱エネルギーを与えると,ガス分子は脱着する。大きな表面積を持つナノカラム吸着剤をペルチェ素子で冷却し,匂い分子捕集効率を極限まで高める。一般的な吸着剤を充填した場合に比べ,ポーラスアルミナ・アルミ基材の熱伝導率が高いため,捕集したガスをヒータにより瞬時に加熱脱着できると期待される。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大に伴って,年度末に研究成果発表を予定していた幾つかの学会の開催が直前になって中止となった。一方,本年度に選定した吸着剤では,十分な匂いの分離効果が得られなかったため,次年度は様々な吸着剤を購入して実験を行い,吸着剤の特性を調査する必要が生じた。そこで,当初予定していた出張が直前でキャンセルとなった分の旅費を繰り越し,次年度に吸着剤などを購入するための費用として用いることとした。
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Research Products
(5 results)