2020 Fiscal Year Research-status Report
プラズマ医療の安全性確立へ向けたプラズマ誘起界面反応のメカニズム解明
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19K14967
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
立花 孝介 大分大学, 理工学部, 助教 (10827314)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | プラズマー液体相互作用 / 気液界面プラズマ / 数値シミュレーション / 速度論的モデル / 分子論的モデル / 自由エネルギープロファイル / ハロゲン化物イオン |
Outline of Annual Research Achievements |
ハロゲン化ナトリウム水溶液(塩化・臭化・ヨウ化ナトリウム水溶液)へのプラズマ照射実験にて,これまで測定してきたハロゲン(塩素,臭素,ヨウ素)に加えて,過酸化水素の測定も実施した。さらに,ハロゲン生成に使用されなかったOHラジカルを測定すべく,電子スピン共鳴法を用いた測定(スピントラップ剤にはDMPOを使用)も行った。その結果,プラズマにより生成された過酸化水素やDMPO-OHの濃度は,塩化・臭化・ヨウ化ナトリウム水溶液の順番で大きかった。本実験結果から,高濃度の塩化物・臭化物イオン(濃度:2.1 mol/L)が処理液中に存在していても,OHラジカルがハロゲン生成以外に使用されること,その一部が過酸化水素の生成に使用されることがわかった。いずれの実験結果も,昨年度に提案した「短寿命活性種が気液界面の最上層でのみ反応する」という仮説により矛盾なく説明できると考えている。 数値シミュレーションでは,気液界面におけるOHラジカルの自由エネルギープロファイルや塩化物イオンの濃度分布を考慮可能な速度論的モデルを構築した。本モデルを用いてOHラジカルが気相から塩化ナトリウム水溶液へ輸送されたときの拡散・反応過程を計算したところ,OHラジカルの多くは液相バルクへ移動して塩化物イオンと反応した。本計算結果は,昨年度に計算したOHラジカルの浸透深さ(1 nm以下)と矛盾するため,モデルの内容等について詳細に検討したところ,従来の浸透深さの定義では「OHラジカルが気液界面の最上層でのみ反応するかどうか」が判断できないことがわかった。そこで,自由エネルギープロファイルが変化したときの気液界面近傍(界面から数nm離れた位置)におけるOHラジカル濃度に注目したところ,OHラジカルが気液界面の最上層にとどまるには,文献で報告された値より大きなポテンシャルバリアが必要であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験:針-水面上アルゴンプラズマを用いたハロゲン生成実験では,従来のハロゲン測定に加えて,Ti-PAR試薬を用いた過酸化水素の高感度計測や電子スピン共鳴法を用いた液中OHラジカルの計測を実施してきた。これらの計測により,プラズマ誘起界面反応に関する実験的知見が多く蓄積されてきたと考えている。現在は,ハロゲン化ナトリウム水溶液のpHの変化させたときの実験も進めており,すでにいくつかの実験は実施済みである。しかしながら,pH調整試薬やハロゲン測定手順の変更・改善が必要だとわかったため,対策を進めている。現在はさらに,真空紫外光を用いた実験の準備を進めている。実験に必要な金属ボックス(エキシマランプ(真空紫外光を放出するランプ)を格納するボックス)の設計はすでに完了しており,真空紫外光を用いた実験をまもなく開始できる状況にある。真空紫外光とプラズマでは実験条件に違いは生じるものの,真空紫外光の使用により実験条件を簡単にできるため,プラズマ誘起界面反応のメカニズムについて多くの知見が得られると考えている。 数値シミュレーション:気液界面におけるイオン濃度分布や短寿命活性種の自由エネルギープロファイルを考慮可能な速度論的モデルの構築はおおよそ完了した。本速度論的モデルでは,液中イオンの濃度分布や短寿命活性種の界面活性等を考慮できるため,気液界面における反応をより正確に計算できると考えている。今年度は速度論的モデルの構築に注力したため,分子動力学シミュレーションについては昨年度に引き続き,気液界面における拡散定数,自由エネルギープロファイル,イオン濃度分布等の計算を行っている。今後は,気液界面における自由エネルギープロファイル等に加えて,短寿命活性種の気液界面における輸送やイオンの界面濃度分布に電界が与える影響についても,分子動力学シミュレーションを用いて調査・検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
実験:真空紫外光を用いた実験を遂行する予定である。真空紫外光により水分子を解離することで得られるOHラジカル等を含んだガスをハロゲン化ナトリウム水溶液に吹き付け,そのときに生じる化学反応を観測する。真空紫外光とプラズマで条件に違いはあるものの,真空紫外光を用いることにより反応場を簡単にできる(ガス温度や水温の変化がない,プラズマ由来の電子・イオン・紫外線等が存在しない等)。そのため,真空紫外光を用いた実験から得られる知見は,プラズマ誘起界面反応を理解するうえで非常に有用だと考えている。また, OHラジカル等を含むガスを処理液へ吹き付ける部分に高電圧印加装置を付加する予定である。本装置を付加することにより,ラジカル生成とは独立に気液界面における電界を制御できため,短寿命活性種の気液界面における輸送に電界が与える影響を実験的に明らかにすることができると考えている。 数値シミュレーション:分子動力学シミュレーションを用いて短寿命活性種が気液界面に衝突する際の軌道,気液界面における拡散定数,気液界面における自由エネルギープロファイル等を計算する。本シミュレーションには分子動力学シミュレーションパッケージであるAmberを使用する。本シミュレーションを電界があるとき・ないときの両方で実施することにより,気液界面における短寿命活性種の挙動に電界が与える影響についても調査する。その後,分子動力学シミュレーションを用いて得られた気液界面における物理量(拡散定数,自由エネルギープロファイル等)を,これまでの研究で構築した速度論的モデルに導入したうえで,プラズマ照射時における短寿命活性種とハロゲン化ナトリウム水溶液との反応を計算する。得られた計算結果と実験結果を比較することにより,プラズマ誘起界面反応のメカニズムを明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは,新型コロナウィルスの影響により多くの学会が延期,あるいは,オンライン開催になったためである。これにより,学会参加に伴う出張がほとんどなかったため,予算として計上していた旅費を使用せずに今年度が終了した。特に,参加を検討していた国際学会も新型コロナウィルスの影響により延期となり,海外への出張がなくなったのが,次年度使用額が生じた最も大きな原因であると考えている。 新型コロナウィルスの感染状況に依るが,次年度も学会への現地参加は難しいだろうと考えている。最近の傾向として,多くの学会は延期ではなくオンライン開催,あるいは,ハイブリッド(対面とオンラインの併用)開催を選択している。そのため,次年度は今年度よりも学会参加の機会は増えると想定している。しかしながら,新型コロナウィルスの感染状況によっては,現地までの移動が難しい場合が予想される。 そのため,次年度使用額は,本研究課題に関する実験・数値シミュレーションを加速させるのに有用な物品の購入に使用したいと考えている。現時点では,真空紫外光に対応した光量計の購入やワークステーション(数値シミュレーション用パソコン)へのGPU (Graphics Processing Unit) 追加などを検討している。
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