2019 Fiscal Year Research-status Report
現存生物に内在する自律分散制御則から切り拓く古生物の運動様式の革新的再現手法
Project/Area Number |
19K15010
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
福原 洸 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (10827611)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 自律分散制御 / 古生物 / 遊泳ロボット |
Outline of Annual Research Achievements |
太古の地球で繁栄を極めた恐竜は,どのように動き回っていたのだろうか? 古生物の運動様式は長く議論されてきたが,運動の痕跡が極めて残り難いため未だ多くの謎に満ちている.この謎に対して,これまで最適化手法などに基づく運動の復元が試みられてきた.しかしながら従来手法では,試行環境や評価関数に特化した運動パターンが生成されるため,無限定で予測不可能な環境を生きた古生物の運動様式を理解することは難しい.この現状を打破するため本研究では,「いかなる時代の生物も,環境や身体に呼応した合理的な運動様式を発現する」という作業仮説に基づき,適応的な運動パターンを生み出す自律分散制御を突破口とした革新的な再現手法を構築することを目的とする. 具体的には,首長竜と呼ばれる海生爬虫類がその特異な身体構造をどのように協調させていたかを自律分散制御の視座から検討することで,生物規範制御を取り入れた古生物の運動復元手法の構築を本研究のゴールする. 首長竜の四肢は同じ大きさ・形状のヒレへと形態が適応しており,遊泳において四肢のヒレがどのように協調しているのかは永く議論されている.本年度では,身体・環境・そして制御メカニズムの三者間の相互作用から即時適応的に合理的なヒレ間の協調運動が生み出せるのではないかと仮説を立てた.そこで,回流水槽のなかで首長竜の前後のヒレの流体を介した相互作用を検証可能なロボットプラットフォームを構築し,前後のヒレの協調関係と遊泳効率の関係を明らかにした.また,四脚動物が示す適応的な歩行・走行パターンを実現する脚間協調制御則を基に,首長竜のヒレ間の協調を生み出す制御を構築し,その有用性を検証した.現在,その成果をまとめ,数名の古生物学者との共著による論文投稿準備中である. さらに,四肢の協調のみならず,頸部との協調についてもペンギンなどの現生動物の振る舞いを参考に検討を始めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究の目的であった自律分散制御の観点からの古生物の運動復元に対して,検証用のプラットフォームを構築し,更に提案する制御則の妥当性検証実験を行っている.実験結果として,ロボットの形態や運動周期に応じた合理的なヒレ間の協調パターンを即時適応的に生成することに成功している.これは,2年目前半までの当初計画であったため,当初の研究計画以上の進展といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究はこれまでの古生物復元に持ち込まれていた形態や系統,またバイオメカニクスの知見とは異なる「運動制御」の観点を持ち込むものである.そのため,従来の様々な知見に加えて,運動制御メカニズムというメトリックスから古生物と現生動物の類似点・相違点を議論することが可能となる.提案手法の有用性や発展性を明らかにするために,次年度は現生動物に見られる脚間協調メカニズムと構築した首長竜ロボットのヒレ間協調メカニズムを比較しながら,なぜ首長竜は陸生爬虫類から水棲適応が可能になったかという生物進化も含めて,運動復元手法の確立と応用事例を進める.また,四肢の協調のみならず,長大な頸部の協調を含めた遊泳様式についても検討を進める.
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Causes of Carryover |
計画当初は,首長竜の4つのヒレの間の協調を扱う予定であったが,前後のヒレの間の協調に焦点を絞ることで,身体・環境・制御の相互作用をより明らかにすることが期待できるため,計画を変更し,首長竜の半身を模した実験系を構築した.そのため,現段階でロボットの作製費が研究当初に比べ抑えられており,差額が生じている.次年度は,全身を模したロボットを作製するため,生じた予算差額を執行する計画である.
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