2020 Fiscal Year Research-status Report
コウモリの生物ソナーからひも解く大自由度な3次元音響ナビゲーションの解明
Project/Area Number |
19K15012
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
山田 恭史 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 研究員 (80802561)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | エコーロケーション / 空間学習ナビゲーション / バイオミメティクス / SLAM / 生物ソナー / 構成論的研究手法 / シンプルデザインセンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究遂行により,①3次元定位に効果的な耳介運動について数値計算による分析を行った.この結果,聴音軸(もっとも聞き取りやすい方向)の水平・垂直角の両方が時間的に変化し,かつ,左右両耳の各聴音軸の最大角が,一時的に大きくとれる運動であれば定位精度を高く保てることが分かった.今後は,より網羅的な耳介運動と定位精度の関係性についての分析から,理論構築を図りたい. また,コウモリの空間学習ナビゲーションに関する研究からは,②飛行環境の音響的な見通しの良し悪しに応じて,コウモリが飛行速度やパルス放射方向の選択性を変化させることが計測できた.具体的には,アクリル板を障害物として用いた場合とチェーンを障害物として用いた場合の2通りの障害物コース下で,コウモリに12回の繰り返し飛行を行わせ,ナビゲーション行動の比較を行った.この結果,放射パルスが障害物の裏側まで透過するチェーン環境下では,繰り返しの飛行によって,飛行速度を上昇させたのに対し,パルスの透過を防ぐアクリル板環境下では,そのような速度上昇がみられなかった.これに加え,チェーン環境下では,積極的にチェーンとチェーンの隙間から奥の空間に向けてパルス放射する傾向が見られたのに対し,アクリル板環境下ではそのようなパルス放射方向の制御が見られなかった. これらの結果から,コウモリはより先の空間の情報を積極的に入手し,どれだけ先を見通せたかに応じて飛行速度を調節していることが分かった.また,これら音響的な見通しの良し悪しと空間学習飛行の関係性をまとめたものについて,論文化することができた.これらの成果は,空間記憶とセンシングの依存バランスについて分析したものであり,環境柔軟性を取り入れた空間学習ナビゲーションモデルへと拡張するうえで,重要な知見となることが期待される.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の本年度の研究計画通り,コウモリのナビゲーションの柔軟性に関する新たな知見を行動計測から手に入れることができた.特に,音響的見通しの悪さが,空間学習後の飛行速度上昇を妨げるという結果は,コウモリも我々ヒトが運転する際と同様に”かもしれない飛行”をしているのではないかと捉えることができる.空間の非検知領域の大きさに応じた運動制御則を原理的に理解し,数理モデルとして記述することができれば,飛行時間だけでなく空間にも依存する時空間適応ナビゲーションへと拡張できると考えられる. これらの成果は,生物知性を感じるナビゲーションをドローンへと実装する上で,必要不可欠かつ根幹的なものの一つであると言える. 次年度は,これら適応プロセスのモデル化を図るとともに,3次元定位システムの実機への実装についても試みる.最終的には,それら一連のシステムを用いた実機評価からその有用性の検証を試みる.
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに計測できたコウモリの時空間適応ナビゲーションについて,モデル化を図り,数値シミュレーション上での行動の再現性について検討する.その後,まずは自律走行車を用いた方法によって実環境評価を行う.センシング頻度の減少や経路の安定性に着目し,エネルギーコストや目標地点到達時間の観点からその有用性を評価する. さらに,前年度までに検討した耳介運動による3次元定位手法をさらに簡略化した方法でセンシングシステムへの実装を試みる,特に,機械的に耳介運動を実装するのではなく,工学分野で用いられるマイク受信指向性の制御法を効果的に組み合わせることで,それらの模擬実装を簡潔させる. 最終的には,コウモリ模倣ナビゲーションとコウモリ模倣3次元定位システムを組み合わせてドローンへ実装することで,3次元飛行ナビゲーションを達成させる.最終的には,それら模倣システムの有無による定量評価から,コウモリの音響ナビゲーションの設計思想について考察を行う.
|
Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により,主に国際・国内学会の旅費が当初の計画よりも大幅に余る結果となった.しかしその一方で,研究が実機検証段階に入り,送信器の周波数特性や指向性についてより精密な音響計測が必要であると実感した. そこで,音響計測用精密マイクとそのプリアンプの購入を画策している(Bruel & Kejaer社製).これらの購入によって,本申請者が属する広島大学にて,実機に用いる音響計測装置の周波数特性や指向性の高精度評価が可能となる.すなわち,ドローン及び自律走行車へのセンシングシステム実装をより円滑に推し進めることができる. また,実機検証を加速させるために,ドローンの3次元飛行経路を解析するためのカメラ解析システム(Detect社)の購入についても検討を行っている.上述の音響計測装置購入後の残額を見ながら,購入を検討する.
|
Research Products
(2 results)