2019 Fiscal Year Research-status Report
デブリ除去衛星の小型化を可能とする軌道上外乱を積極的に用いた姿勢制御に関する研究
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19K15020
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
佐々木 貴広 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 研究開発員 (00835168)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 宇宙デブリ除去 / 宇宙機システム / アストロダイナミクス / 制御工学 / 姿勢誘導 / 姿勢制御 / 軌道制御 / 軌道上外乱利用 |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙デブリの自然増加の抑制に有効である大型デブリ除去は、年間除去目標における費用対効果を考えたとき、小型衛星によって実施される必要がある。このとき、「大型デブリと結合後に大きく変わる質量特性を、最小限のセンサシステムで推定し、非力なアクチュエータシステムで、いかに効率的にデブリを落とすか」が問われる。 デブリ除去ミッション全体のシーケンスにおいて、高い高度から再突入高度までを、推進系を用いて落下させると推薬量が多くなるため、推進系が大規模となり、小型衛星のシステムが成立しなくなる。そこで電気推進を用いて、ある程度の高度まで落下させた後、大気抵抗を積極的に利用して落下させることが有効である。 大気抵抗を利用して降下させる場合、落下を速くするには空力断面積が最大となる姿勢をとる必要があるが、そのような姿勢を小型衛星が搭載できる非力なアクチュエータを用いて制御することは困難である。よって本研究では、国際宇宙ステーション (ISS)等で採用されているトルク平衡姿勢 (TEA)誘導の適用を考える。ただしISSの場合、平均軌道高度を約400km に維持しているため、空力トルクの計算で要する大気密度は一定として近似可能であり、空力トルクと重力傾斜トルクの平衡点で表されるTEAも一定として扱うことが可能であった。一方でデブリ除去衛星の場合は、再突入に向けて軌道高度を時々刻々と変化させるため、大気密度を一定と仮定することはできない。 そこで本研究では、空力トルクと重力傾斜トルクの釣り合い点を軌道高度ごとに求める高度依存型TEA誘導則を新たに設計し、軌道高度変化を要するデブリ除去ミッションへTEAを適用する方策を提案した。これにより、非力なアクチュエータを持つ小型衛星でも、無理のない範囲で空力断面積が大きくなる姿勢をとることができ、より速くデブリを落下させることが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
小型衛星で大型デブリを落下させる際、厳しい推薬量の制約から、大気抵抗を積極的に利用し落下させることが有効である。大気抵抗を最大限活用できる姿勢として空力断面積を最大化することが考えられるが、働く外乱トルクや蓄積される角運動量が大きくなることから、国際宇宙ステーション (ISS)では、重力傾斜トルクと空力トルクの釣り合い点であるトルク平衡姿勢 (TEA)誘導則が採用されている。ISSは平均軌道高度を約400km に維持しながら飛行しているため、空力トルクのパラメータである大気密度の大きさは一定として近似可能であり、それを用いて計算されるTEAも一定の姿勢として得られる。しかし、再突入へ向けて軌道高度を時々刻々と変化させるデブリ除去ミッションでは、大気密度を一定と仮定することはできない。 そこで今年度の研究では、主に軌道高度変化に対応したTEA誘導則を提案し、小型衛星による大気抵抗を利用した大型デブリ落下の高速化の実現可能性を明らかにした。はじめに、大気密度モデルを用いてデブリ結合時から再突入までの各軌道高度における軌道一周回平均の空力トルクを算出した。つぎに、非線形計画法を用いて、求めた空力トルクと重力傾斜トルクの平衡点(釣り合いの点)を計算し、軌道高度依存型TEAを導出した。そして数値シミュレーションにより、得られた軌道高度依存型TEAをトラックすることで、小型の除去衛星に働く外乱の大きさや、蓄積される角運動量の大きさが、従来法の空力断面積が最大となる姿勢誘導則と比較して、大幅に軽減できることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究では、小型衛星で大型デブリを落下させる効率的な方法として、軌道高度依存型トルク平衡姿勢 (TEA)を新たに提案し、非力なアクチュエータを持つ小型衛星でも、無理のない範囲で空力断面積が大きくなる姿勢をとることができ、大型デブリ落下の高速化が可能であることを、数値シミュレーションを通して明らかにした。 しかし、TEAの計算に必要な空力トルクの導出において、「大気密度について既存のモデルを利用している」、「空力中心と重心間のベクトルが一定としている」、などの仮定を導入している。したがって、大気密度モデルによる空力トルクの大きさに関する誤差や、空力中心を一定としたことに起因する除去衛星に働く空力トルク方向の誤差が、数値シミュレーションと軌道上での実際の運動とのギャップとして生じる。 今後の研究では、上記のギャップを打ち消す方針として、流体解析 (CFD;Computational Fluid Dynamics)を用いて、軌道高度と除去衛星の姿勢に対応したデータベースを作成し、より厳密な大気抵抗、空力トルクのモデル開発を行い、航法誘導制御シミュレータへ取り込むことにより、モデル化誤差の小さいシミュレーションを実施する。また、軌道上の除去衛星がオンボードで誤差を修正する方針として、姿勢目標値を導出する誘導則側では、TEA誘導誤差を軌道一周回ごとに学習して、修正するような適応誘導則を提案・実装することを考える。加えて、制御則側では、モデル化誤差や航法誘導誤差に対してロバストな制御器を設計することで対応する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:当初予定していた外勤旅費が不要となったため。 次年度使用額の使用計画:昨年度および今年度の研究成果発表のための旅費および学術誌掲載費として使用する予定である。
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