2019 Fiscal Year Research-status Report
土木バッシング世論を形成する心理的メカニズムの実証的分析
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19K15117
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
田中 皓介 東京理科大学, 理工学部土木工学科, 助教 (30793963)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スケープゴート / ファクトチェック / フェイクニュース / 世論 / 公共事業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、なぜ不合理な土木バッシングを世論が支持するのか、その心理的要因を「スケープゴーティング」と呼ばれる心理現象に着目し分析することである。 本年はまず、公共事業を巡る世論状況を整理するために、どのような不合理なバッシングが存在するのかを明らかにすることを目的とした検証を行った。具体的には、近年の日本のみならず世界の各国でしばしば問題視されている事実に基づかない情報、すなわちフェイクニュースに着目し、特に新幹線事業に関する新聞社説の内容を体系的に検証し、客観的事実と照らし合わせることで、どのような間違いがどの程度の頻度で報道されているのかの分析を行った。その結果、整備新幹線の財源の説明や事業効果の検証において、その説明の論理性の不適切さや、効果検証方法の不適切さ、を示唆する結果が示された。こうした、税金や事業効果については、本研究が着目する1990年代以降の経済の停滞にも関係するものであり、こうした点に関して、世論に影響し得る新聞報道の実態についての知見が得られた意義は大きい。 一方で、スケープゴーティング現象や関連する社会心理学研究の論文や書籍をレビューすることでその心理構造の整理を行うとともに、アンケート調査を行うことでその心理構造の実証的な検証も行った。アンケートでは、起因となりうる日本の社会状況の認識や自身の生活についての見通し、スケープゴートになりやすいことが指摘されているバッシング対象の性質についての認知状況、バッシングを引き起こしやすいことが指摘されている個人の価値観を、それぞれ尋ねるとともに、バッシング意識の強弱を尋ねた。これらの回答結果を分析することでバッシング心理の分析を行うが、分析については進行中である。同時に、土木バッシングの特徴を相対的に明らかにするために、対象を公務員や政治家としたバッシング意識も測定しており、分析ついては進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、なぜ不合理な土木バッシングを世論が支持するのか、その心理的要因を「スケープゴーティング」と呼ばれる心理現象に着目し分析することである。当初の予定では、初年度は、まず先行研究のレビューにより、スケープゴーティング現象についての理解を深め、その構造を明確化する必要があった。同時に、過去の報道内容の検証を行うことで、公共事業批判の論理構造を抽出することを予定していた。その上で、可能な範囲で、新聞報道の定量分析に着手するところまでが予定であった。 このうち、先行研究のレビューや、それに基づく心理構造の抽出については、当初の予定通り実施できた。そして、過去の報道内容の検証による、公共事業批判の構造抽出、および抽出した批判構造に基づいた、報道内容の定量化については、必ずしも十分な水準とはいえないものの、一定の成果は得られた。一方で、抽出した心理構造の実証分析を2年目に実施予定であったが、その一部をすでに実施した。アンケート実施前に、報道分析等を通して、さらに仮説を精緻化することもできたかもしれない。しかし、先行的に調査を行うことで見えてきたものもあり、これを踏まえたさらなる報道分析や、より精緻な形式でのアンケート調査にもつながるものと期待される。 そのため、必ずしも予定通りの順序で予定通りの研究を実施してきたわけではなく、その順序が前後してはいるものの、3年間の研究計画のうちの1年分の進捗と考えれば、予定通りの量の研究が進んだものと言える。以上より、当初の計画以上とは言えないまでも、おおむね順調に進展しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の課題は、主に次に示す3点である。2020年度はそのうち、第一の点と、第二の点を重点的に行い、2021年度に取り組む第三の点へ向けた準備ないしは一部で実施もできればと考えている。 第一に、新聞報道分析を軸にした、公共事業批判の論理構造の精緻化である。過去の研究でも、また、過年度の研究でも実績はあるものの、1年目に行ったアンケート調査の結果も踏まえて、新たな視点から世論・報道の分析を行うことが必要である。 第二に、1年目に行ったアンケート調査結果の分析とその公表である。すでに発表予定である2020年6月の第61回土木計画学研究発表会において発表し、土木の専門家の方々との議論を行う予定である。その上でさらなる分析を行い、2020年11月に予定されている社会心理学会第61回大会においても発表を行うことで、社会心理学の専門家からの意見も取り入れて、本研究のさらなる発展を企図したい。 以上が2020年度に必須の研究計画であり、それを踏まえ、第三の課題である、さらなるアンケート調査の実施を行う予定である。さらなるアンケート調査では、単に人々の心的傾向を明らかにするだけにとどまらず、人々が抱く、不合理なスケープゴーティング的心理傾向の軽減に向けた情報提供ないしはコミュニケーション方法の検討を行い、その効果を実証的に示すことを予定している。 なお、2020年上半期に生じている世界的な新型コロナウイルスの感染拡大の影響も加味しなければならない。本研究はバッシングの起因としての社会的不安を想定しているが、新たな社会不安としての感染症の拡大は無視できない。土木のみならず、様々な対象へのバッシングが過熱しがちな状況であると想定されるため、先行きが不透明な状況が続くものの、当初の目的が達成できるよう、そうした社会状況も踏まえた上で計画をその都度柔軟に見直しながら、実施していきたい。
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Research Products
(2 results)