2020 Fiscal Year Research-status Report
土木バッシング世論を形成する心理的メカニズムの実証的分析
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19K15117
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
田中 皓介 東京理科大学, 理工学部土木工学科, 助教 (30793963)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | scapegoat / public policy / civil engineering / infrastructure / public opinion |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、なぜ不合理な土木バッシングを世論が支持するのか、その心理的要因を「スケープゴーティング」と呼ばれる心理現象に着目し分析することである。2年目となる本年度は、前年度末に実施したWebアンケート調査結果を分析しその心理構造の実証的な検証を行った。アンケートでは、起因となりうる日本の社会状況の認識や自身の生活についての見通し、スケープゴートになりやすいことが指摘されているバッシング対象の性質についての認知状況、バッシングを引き起こしやすいことが指摘されている個人の価値観を、それぞれ尋ねるとともに、バッシング意識の強弱を尋ねた。 分析の結果、土木バッシングの起因として、日本経済の見通しのネガティブさが影響しており、また、対象への意識として、嫌われても仕方がない、バッシングしても影響はない、という意識との影響が示された。このような意識はスケープゴーティング現象として想定されるものであり、土木バッシングの背景にスケープゴーティング的な意識が存在していることが実証的に示された。同時に、対象を公務員や政治家としたバッシング意識と比較した結果からは、土木よりも公務員、公務員よりも政治家に対して、スケープゴーティング意識が強いことが明らかとなった。 そうした結果および学会等での発表・議論を踏まえ、このような土木に対するバッシング意識の特徴をさらに明らかにするために、国際比較分析の実施を計画している。先行研究の日本国内における公共事業支持意識の研究知見等を参照するとともに、先進国としてインフラ整備が一定程度進んでいる米国および英国を比較対象とし、人々にアンケート調査を行うことで、日本人の土木バッシング意識に見られる相対的な特徴を明らかにする。年度末までに調査設計はおおよそ完了し、3年目の早い時期に調査を実施予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題は、なぜ不合理な土木バッシングを世論が支持するのか、その心理的要因を「スケープゴーティング」と呼ばれる心理現象に着目し分析することである。1年目の実績を踏まえた当初の予定では、まず1年目に行ったアンケート調査結果の分析とその公表を予定していたが、2020年6月の第61回土木計画学研究発表会および日本社会心理学会第61回大会においても発表を行った。新型コロナ感染症の影響により学会発表がオンラインとなったため、発表や議論の形式は慣れないものとはなったが有意義な議論はできたものと思われる。 さらに、当初、2年目に予定していたのは、1年目の実績を踏まえたより精緻な意識構造の分析を可能とするアンケート調査の実施であったが、学会でのディスカッションやアンケートデータの分析を通して、相対的な比較を行うことが、日本における土木バッシング意識の解明に役立つと判断し、国際比較分析を行うこととした。既往研究等でも、日本の土木事業の実施状況の特異性は指摘されており、国際比較により日本の世論状況を相対的に明らかにすることが、単に日本人だけを対象とした詳細な分析以上に意義のある知見を得られるものと期待し、国際比較分析を検討することとした。年度内のアンケート実施を予定し、調査内容を検討していた。 しかし、冬季における新型コロナ感染症の世界的な拡大と、日本において2回目となる緊急事態宣言の発令などもあったが、本研究課題が人々の社会的不満等を切り口とした分析である以上、そうした社会情勢の影響は無視できない。そのため、多くの国や地域で大きなピークとなっており、かつ、ワクチンの有効性も不確定で先行きが見通せない状況での実施を延期したため、当初の予定ほどには進捗しなかった。しかし、少し状況の落ち着いた2021年5月から調査を実施し始めており、研究機関全体の3年間での進捗には大きな影響はないものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の研究計画は以下の通り予定している。まず、2年目に実施予定だったアンケート調査は、新型コロナ感染症の影響を受けて当初予定より実施は遅れたものの、すでに実査を始めているところであり、3年目の早い段階でデータは取得できることが見込まれている。このデータに基づいて夏ごろを目途に分析を行い、本研究成果は2021年12月の第64回土木計画学研究発表会にて公表を予定している。 さらに、分析および学会発表と並行し、本研究課題の3つ目のアンケート調査を計画している。これまでの2回の調査のように、人々の心的傾向を明らかにするだけにとどまらず、人々が抱く、不合理なスケープゴーティング的心理傾向の軽減に向けた情報提供ないしはコミュニケーション手法の検討を行い、その効果を実証的に示すことを予定している。その際には、スケープゴーティングに関わる既往研究のみならず、態度行動変容に関する既往研究の知見や、人間の非合理性を前提として一定程度の体系化が図られている行動経済学などの知見も踏まえて検討することが、不合理な土木バッシング意識の軽減には大いに役立つものと期待される。 調査・実験内容の検討は随時進めていくが、国際比較調査の結果の分析および学会でのディスカッションの結果を反映するために、2021年12月~2022年1月のアンケート実施を予定している。 ただし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響も加味しなければならない。本研究はバッシングの起因としての社会的不安を想定しているが、社会不安としての感染症の拡大は無視できない。土木のみならず、様々な対象へのバッシングが過熱しがちな状況であると想定されるため、先行きが不透明な状況が続くものの、当初の目的が達成できるよう、そうした社会状況も踏まえた上で計画をその都度柔軟に見直しながら、実施していきたい。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では、大きな支出項目としてアンケート調査の実施を予定していた。その調査内容は、どのような社会的不満がバッシング意識と関連するのかなどの、人々の心理傾向を把握するためのwebアンケート調査を実施する予定であった。しかし、感染の急拡大や緊急事態宣言の再発例などにより不安定な社会状況が続き、人々の不安や不満も大きな影響を受けていることが想定された。本研究課題が、人々の社会的不満等を切り口とした分析であり、日本において2回目の緊急事態宣言で日本社会が大きく混乱している時期に、調査を実施して得られる結果から、科学的知見としての一般性を見出すことが困難と考えた。そのため、感染の完全な終息目途はつかないものの、風邪やインフルエンザの流行する冬季の実施は見送ることとした。さらに、実査を行うアンケート調査会社も、感染拡大を受けたリモートワークなどによる人員のひっ迫および、各種調査需要の急増により、通常納期から大幅な遅延を余儀なくされていた。 以上のような理由から年度内の調査実施を見送ることとした。まだ感染拡大の懸念がなくなったわけではないが、ワクチンの有効性も確認され、新型コロナ感染症の収束の兆しが見え始めてきた中で、すでに調査を始めており、繰り越し分についてはすでに実施している当該調査により、次年度の早い段階で使い切る予定である。
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Research Products
(2 results)