2021 Fiscal Year Research-status Report
土木バッシング世論を形成する心理的メカニズムの実証的分析
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19K15117
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田中 皓介 京都大学, 工学研究科, 助教 (30793963)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | international comparison / scapegoating / public works / public opinion |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、なぜ不合理な土木バッシングを世論が支持するのか、その心理的要因を「スケープゴーティング」と呼ばれる心理現象に着目し分析することである。3年目となる本年度は、日本におけるバッシング世論の解明のため、アンケート調査による人々の意識の国際比較を実施した。その結果、個別の論点として、英米2か国に比べ、公共事業そのものへの支持意識の低さおよび、「非効率さ」や「役に立たないものを造る」という否定的なイメージが強いことが示された。さらに、米英2か国と比べ、現場労働者への信頼に顕著な差は見られない一方で、政府や企業への信頼が特に低いことが示された。また、日本においては、個人の不満を他者に投影して批判することで留飲を下げる、スケープゴーティング的心理により,公共事業バッシングが生じている可能性も示された。 一方で、SNSへの投稿内容を分析した研究により、日米で比較した場合に、日本においては公共事業への関心が、災害や不正、予算編成などで高まる一方で、米国では急激に関心を集めることが少なく、日本における土木バッシングのような批判は皆無であることが明らかとなった。これは、アンケート調査により明らかになった結果とも整合しており、日本において特異な土木バッシング世論の存在を示すものと解釈できる。 さらに、「土木」という単語の影響に着目した研究も行った。大学の学科名称の改名に着目した本分析は、偏差値や人気度を改名前後で分析したものであるが、名称変更の顕著な影響は検出されたなかった。つまり、日本においては土木に対するネガティブイメージは存在しており、土木業界として、名称変更等で、そのイメージ改善を目指してはいるものの、そうした対策の影響は限定的なものである可能性を示すものである。 今後はどのようしてこうしたネガティブイメージを改善していくことができるのか、その実証的な研究を実施予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の研究予定では、1年目(2019年度)に基礎的な文献調査やマスメディアの報道内容調査、2年目(2020年度)に大規模な意識調査を行い、3年目(2021年度)にイメージ改善に向けた実践的な知見の提言のための実験的なアンケート調査を行うことを予定していた。 2年目に予定していたのは、1年目の実績を踏まえたより精緻な意識構造の分析を可能とするアンケート調査の実施であったが、学会でのディスカッションやアンケートデータの分析を通して、相対的な比較を行うことが、日本における土木バッシング意識の解明に役立つと判断し、国際比較分析を行うこととし、その準備を進めていた。しかし、2年目の調査実施においては、COVID-19の感染が世界中で拡大と縮小を繰り返し、人々の意識そのものへの影響および、社会変化に伴うアンケート調査会社のリソースの確保の困難さから、研究計画に遅延が生じた。感染拡大から1年以上経過し、少し状況の落ち着いた2021年5月に国際比較のアンケート調査を実施した。3年目(2021年度)は、得られたデータの分析を中心に行い、得られた知見に基づきながら、当初の計画通り2021年度内に、実践的な知見の提言のための実験的なアンケート調査の実施も検討していた。しかし、2年目の遅れも影響し実施時期が冬季になりそうであったが、冬季はCOVID-19の感染拡大に伴う社会不安の増大も予想された。そのため、社会状況のある程度落ち着いた時期でのアンケート調査を実施するため、研究機関を1年間延長し、時期を見定めて実施することとした。 以上の通り、社会不安を一つの要因と考える本研究課題では、COVID-19の感染拡大による社会不安増大の影響を加味し、アンケート調査のタイミングを検討する必要があり、研究計画に遅延が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画での3年目に実施予定であった、土木業界のネガティブイメージ改善に向けた実践的な知見を得ることを目的とした研究を、延長した4年目に実施する。その際、これまでに得られた知見を踏まえ以下の通りアンケート調査を計画している。 人々の意識のアンケート調査による国際比較分析やSNS投稿内容の比較の結果からは、土木に対して一定程度否定的な世論が形成されている様子が窺える。一方で、過去の新聞報道の分析において明らかとなった、2000年代をピークにしたバッシング的な世論は、2010年代以降の日本においては、顕著なものではない様子もまた窺える。さらに、メディアにおける土木バッシングのピークが2000年代であり、「コンクリートから人へ」という象徴的なスローガンを掲げた政権の誕生からも10年以上経過していることおよび、若年層に関連する学科改名に関する分析結果を踏まえると、そもそも若年層においてはそれほどネガティブな世論が形成されていない可能性が想定される。 スケープゴーティングのような不合理な意識及び、こうした世代間の差も想定しながら、ネガティブイメージ改善のために、どのような情報によるコミュニケーションが効果的なのか、検討し、実証していく予定である。特に、土木バッシング報道を経験していると思われる40代以上の世代は、ネガティブな印象を抱いていると想定されるため、ニュートラルないしはポジティブな印象に向けた改善が求められる。土木バッシング報道の認知が弱いことが想定される30代以下の世代は、ニュートラルな印象をポジティブに転換する一方で、そもそも良くも悪くも関心を持たないことも想定した対応を検討する必要がある。 今後は、これまでの研究成果を論文として取りまとめるとともに、上記のような方向性で研究を推進していく予定である。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では、大きな支出項目としてアンケート調査の実施を予定していた。その調査内容は、どのような社会的不満がバッシング意識と関連するのかなどの、人々の心理傾向を把握するためのwebアンケート調査を実施する予定であった。しかし、感染の急拡大や緊急事態宣言の複数回の発例などにより不安定な社会状況が続き、人々の不安や不満も大きな影響を受けていることが想定された。本研究課題が、人々の社会的不満等を切り口とした分析であり、日本において緊急事態宣言等で日本社会が大きく混乱している時期の実施を避けることが必要であった。さらに、実査を行うアンケート調査会社も、感染拡大を受けたリモートワークなどによる人員のひっ迫および、各種調査需要の急増により、通常納期から大幅な遅延を余儀なくされていた。以上のような理由からアンケート調査の実施時期に遅延が生じた。 繰り越した額については、感染拡大や社会情勢を伺いつつ、夏から秋ごろにアンケート調査を実施予定であり、残額のうち6割程度を支出する。また、学会発表費用および出張費用、論文投稿費用として4割程度を支出予定である。
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Research Products
(3 results)