2020 Fiscal Year Research-status Report
カーボンナノファイバーマットの空間デザインによる新規重油回収材料の開発
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19K15128
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Research Institution | Nagano National College of Technology |
Principal Investigator |
滝沢 善洋 長野工業高等専門学校, 一般科, 准教授 (10795082)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ナノファイバー / カーボンナノファイバー / 電界紡糸 / 不織布 / 重油回収 / 画像処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度の実施計画は、①ナノファイバーマット(不織布)(以下NFMとする)作製とその不融化・炭素化処理の検討、②観察と分析、重油吸着性能評価であった。前年度には重油吸着量とNFMの空間の大きさ、ナノファイバー表面の制御により重油吸着量が最大となり得るおおよその傾向が観られた。令和2年度初頭に重油吸着性能向上の検討を遂行する中でカーボンNFMを重油から引き上げる際にNFMが欠損する場合があり、機械的特性向上が新たな課題となった。 「研究の具体的内容」は以下の通りである。(i) 電子顕微鏡像の画像処理によるNFMの空間の大きさと重油吸着量[重油(g)/NFM(g)] の定量的分析とその妥当性の検討:ポリアクリロニトリル(PAN)NFM、カーボンNFM、カーボンNFM(圧縮炭素化)内の特徴的な空間の径はそれぞれ5.3 nm [2.7]、 3.4 nm [17]、2.0 nm [0]となった。カーボンNFMのファイバーと空間の体積比は0.094±0.014:0.906±0.014となった。(ii)機械的特性向上を目的とする不融化・炭素化処理の条件の検討:処理温度がそれぞれ280℃、1000 ℃以上でもろくなることが分かった。(iii)空間制御を目的としたヘリカル形状のファイバー作製の検討:作成した紡糸装置ではJ. Yu (Eur. Polym. J., 44, 2008)、Y. Zhao(Adv. Sci., 1, 2017)が再現できず、目的のファイバーを作製できなかった。そこで、他の方法で形状制御の検討を開始した。 「意義、重要性」は、NFM内の空間を分析・デザインすることができれば、新規の重油吸着材料が実現でき、水環境・海洋環境の保全に貢献できることにある。また、特に空間の分析方法に関してはマスクのような不織布製品の性能向上にも貢献できる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は、画像処理によるNFM内の空間の算出と重油吸着量の定量的な分析とその妥当性を検討することに注力した。具体的には走査型電子顕微鏡でNFMサンプルを観察し画像処理の手法を用いて空間の径分布を算出することである。結果として空間の径の大きさの分布を得ることができ、また、炭素化(一般的に重量減少により空間が減少する)、圧縮炭素化(炭素化中の圧縮により空間がさらに減少される)により、代表的な径が徐々に減少することが定性、定量的に算出された。また、重量とサンプルの実測を組み合わせることでNFMの体積分率を算出することができた。空間の体積分率は94 vol.%となり、一般的なNFMの<95 vol.%と近い値を得た。したがって、空間をデザインする際に不可欠な空間の体積と、ファイバー間に生じる個々の空間の大きさを算出することが可能になった。今後も空間の大きさの系統的な算出と正確性を確保するために、繰り返し画像処理を行い空間を定量的に分析を行う。 しかし、炭素化後のNFMの機械的特性が低くなる課題が新たに浮上したことで不融化・炭素化処理の再検討を行ったことや、世界的な感染症の情勢から研究以外に対応する時間が増し、他研究機関への移動が制限されたこと、予定した学会が中止や延期になるなどで、研究活動に充てられる時間が当初の計画よりも少なくなり、学会参加や発表を行うことができなかった。以上の理由から、進捗はやや遅れていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、樹脂溶液の濃度、異種物質の添加によりNFMを作製し、引き続画像処理で空間の大きさと、そのサンプルの重油吸着量を統計的に調べる。特に異種物質の添加に関しては、A. Juhasz, J. Mol. Liq., 312, 2020(綿状のポリコハク酸イミドナノファイバーの作製に関する報告)等を参考にし、綿状のPANNFM、不融化・炭素化により綿状のカーボンNFMを作製することで空間の制御を試みる。形状の違うファイバーを作製することで、不融化・炭素化の条件や方法の再検討が必要な可能性がある。その際は、ファイバー表面の化学的状態よりも機械的特性を重視して条件を決定するものとする。以上の方法で、空間の制御が一定程度可能となった後に、ファイバーの表面状態をIR測定やXPS測定等で調べ、必要に応じて、炭素化処理温度の検討や化学的手法による表面修飾により、ナノファイバーマット空間のデザインを行う。最適化においては、個々の空間の大きさ、ナノファイバーマットの空間の体積分率、表面状態(疎水/親水)が重油吸着量にどの程度寄与するかも明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
令和2年度に次年度使用額が生じた理由として、当初、炭素化を行うための電気炉の購入を予定していたが、引き続き既存の設備を利用することで対応できたこと、また、新型コロナウイルスの影響で学会への渡航ができず旅費の執行がなかったことが挙げられる。これに関して、次年度使用額\1,514,970は、電界紡糸の樹脂溶液の分析(電気伝導性等)を行うためのマルチメーター(\500,000)、pHメーター(\300,000)、NFMの精密な質量を測定するための電子天秤(\500,000)の購入に充てる計画である。残りの\214,970(物品費\74,900相当、旅費\140,000相当)は令和3年度に請求した消耗品の購入と旅費に追加して使用したい。
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