2020 Fiscal Year Research-status Report
アジア蒸暑地域における建築専門工事に従事する外国籍労働者の実態
Project/Area Number |
19K15173
|
Research Institution | Tohoku Institute of Technology |
Principal Investigator |
佐々木 留美子 東北工業大学, 建築学部, 講師 (20795314)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 出稼ぎ労働者 / シンガポール / 技能試験 / 送出し国 / 設備工事 / 外装工事 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アジア蒸暑地域の大規模建築工事における外国籍の出稼ぎ労働者の労働体制や域内移動による技術伝播メカニズムを解明することを目的としている。特に高温多湿な気候特性を持つアジア蒸暑地域では、省エネルギー化が求められる昨今の背景から、環境配慮に関連する建築部位として、外装や設備の施工業務に着目して進めている。 研究初年度(2019年度)は、現地調査を通し労働者送出しの現状把握を行った。アジア蒸暑地域内で主に労働者を送り出す低所得国を事例に、建設労働者教育の概要や渡航前訓練、帰国後の就労の実態を明らかにした。二年目となる2020年度は、受入れ国での現地調査を通し出稼ぎ時の建設就労に焦点を当てる計画であったが、コロナ禍における海外渡航が困難となったことから、ウェブ等で情報公開が進むシンガポールを中心に建設関連法規のレビューや、シンガポールが設定する技能に関する送出しの要求水準を調査分析した。調査の対象項目は、外装工事としては、屋根・防水工事、建具・ガラス工事、カーテンウォール工事、タイル・石工事、吹付工事等とし、設備工事としては、仕上げ前後の設備工事のうち、空調機器の取り付け工事に関連する項目とした。 シンガポール建築建設庁(BCA building and Construction Authority)の訓練アカデミーが実施する送り出し国内に設置する試験センターでの試験項目を抽出し整理することで、シンガポール政府が周辺国から受け入れる外国人を主に従事させている工事の傾向を把握した。本研究が対象とする設備工事や外装工事については、インドやバングラデシュなど南アジアが重要な送り出し国である実情を明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は、外国籍労働者の労働体制に関するフィールド調査分析を予定していたが、コロナ禍での海外渡航が極めて困難となり、現地での工事関係者への労働者体制に関するインタビュー調査および文献収集は叶わなかった。各国での研究協力者による当該国内の移動や外部調査の実現可能性は乏しかったため、各国の関連する既存研究レビューおよびweb等に公開される情報による調査分析を行った。 対象国における国外からの建設就労者に関する法規制等について、先行研究で明示されているものを整理した。続いて、対象国のうちweb等において情報公開が進むシンガポールを代表として、施工に関する記述を抽出し、要求事項を整理することで、シンガポールにおける関連工事の枠組みを把握した。 次に、シンガポールでの外国人受け入れに際し、条件として提示する技能訓練と技能試験の情報を、シンガポール海外試験センターが実施する送り出し国内での試験項目を抽出し整理することで、シンガポール政府が周辺国からの外国人を受け入れる際に従事させる工事の傾向を把握した。シンガポールが試験センターを設置している国は、インド、スリランカ、中国、タイ、バングラデシュ、ミャンマーで、試験項目としては躯体工事や内外装工事、設備工事の作業で構成されている。設備工事はインドやバングラデシュなど南アジアでは多岐に亘る作業が該当しており、スリランカ、中国、ミャンマーでは限定的な作業のみ対象となっている。内外装のうち外装は、左官やタイル工事はミャンマーを除きすべての国で実施されているが、特にバングラデシュでは多くが対象となっていることから、シンガポールに建設就労で向かう外国人のうち、設備工事や外装工事については南アジアが重要な送り出し国である実情を明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、海外からの建設労働者を多く受入れている国の就労実態調査を検討している。当該年度は海外渡航が困難であり、また諸外国では都市封鎖も散発的に起こったことから、現地の建築プロジェクトに関する調査が難航した。 次年度は、特定の建築プロジェクトに関し、遠隔において収集が可能な事例調査および項目を検討する。現地調査にて収集を想定する文献のうち、プロジェクト概要(建築物用途、規模等)・関係者データ(発注者 、外皮・設備設計者、元請施工管理者、専門設備施工者、専門外皮施工者、プロジェクトマネジャー、コンストラクションマネジャー等)・建 築概要(設計図、仕様等)・工事概要(工事期間、工程表等)といった基本情報のリスト化を実施し、調査可能な建築プロジェクト候補を絞る作業を行う。また現地調査にて行うインタビュー項目を検討する。 また、研究の最終年度には低所得国(ミャンマー・ラオスを想定)から新興国(タイを想定)へ出稼ぎにより専門工事業務を経験した母国の労働者へのアンケート調査を行うにあたり、送り出し国としてラオスでの調査可能性を検討する。昨年度にミャンマーへの調査を遂行しているが、政情不安などにより今後の調査の実現可能性が低いと想定されるため、新たにラオスの技能訓練の実情に関し、文献収集および現地有識者へのオンライン会議を通じた情報収集を継続する予定である。
|
Causes of Carryover |
本研究は東南アジア諸国における現地調査によるデータ収集を主軸として計画をしているため、支出は海外渡航および現地調査による旅費や人件費、物品費を想定している。2020年度は世界において疫病(コロナ)が蔓延したことによる当該国での入国制限や、所属組織の出張制限があり、海外調査を実施していない。これにより当初の計画と大幅に使用額が乖離している。 次年度以降は、海外調査が可能となり次第渡航における旅費、人件費や謝金、物品費として使用する予定である。
|