2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K15186
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
江本 弘 千葉大学, 大学院工学研究院, 日本学術振興会特別研究員(PD) (10831422)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 近代建築史 / グローバル・ヒストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度研究はまず、当該研究の分析対象となる、近代建築の世界史書の全容把握と収集につとめた。この結果、日、英、仏、独、伊、葡、露語について約60点の文献資料が集まった。また、これらの収集済史料の一部である約40件をOCR化し、次年度以降のソフトウェア開発の基礎データを準備した。また、これらの史書に参照された文献資料の遡及とあわせて、これらの書誌情報をデータ化した。 なお、本研究の最終目標は近代建築史の世界史化の発達過程をビジュアライズすることだが、この複雑なデータ分析のためのソフトウェア開発には、段階的な短期目標をさだめ、低次の分析手法を蓄積していくことが重要である。そのためのモデルケースとして、特にS・ギーディオンの Space, Time and Architecture をさだめた。本書は1941年の初版から1967年の第5版まで増補をかさね世界史化を志向してきた近代建築史書の定番である。本書の進化過程を分析し、当時の世界的学術ネットワークのなかに位置づけられるかどうかを試行することは、本研究の展開にとって重要である。その増補の道すじの大枠は、まず、改版ごとに加えられた建築作品や国の一覧化とその図示、また、その増補を可能とした一次文献の遡及によって掴むことができる。 技術開発については、技術者とのミーティングによって、本研究のなかで可能な範囲や開発の道すじについての意見交換をした。このなかで、今後のソフトウェア開発にかんする協力を仰いだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年の調査によって、日、英、仏、伊、独語の近代建築史文献の大部分は網羅できたと考える。ただし、英語文献は英米を中心としており、オーストラリア文献がわずかであることには注意が必要である。その他の言語の調査については漸進的に進めている状況であり、継続的な探索がもとめられる。 収集された文献は2020年度前期までにすべてOCR化する算段が整っており、分析のための下準備は順調であるといえる。 また本年度は、テストケースとしてS・ギーディオンのTime, Space, and Architectureを選定し、ここから抽出、分析すべき要素についての大枠を定めたことが技術開発上の展開について重要だった。 具体的な技術開発にはまだ着手していないが、これについては2020年度前期までに詳細を詰め、後期には開始できると考える。協力を仰ぐことのできる技術者とのコンセンサス形成もまた、今年度の重要な進展であった。
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Strategy for Future Research Activity |
文献史料の収集については、北欧、南米、オーストラリア等の調査が手薄であるため、継続的な探索をおこなう。コロナウイルスの影響によって現地調査が困難となっているため、主な手段はインターネットに頼るほかなく、補助的な雑誌等史料の調査は本年度は諦めざるをえない。現在手元にある資料を中心に、そのなかでほぼ完結させうる分析内容の策定と技術開発をおこなっていく。 今年度は、簡易なソフトウェア開発から順次行っていく。各史書が扱う国、建築家、作品を自動で読み込みデータベース化すること、それらの情報とともに、史書自体の出版地を地図上にビジュアライズすること、など初歩的な目標をさだめてこれを遂行する。 また、各史書の成立にかかわる二次文献の影響の分析については、L・ベネヴォロのStoria dell'architettura Moderna(1960)の解析をモデルとした初等的分析プログラムを組み上げた上で、Space, Time and Architectureをテストケースとして近代建築史の世界史化過程をいかに分析しうるかを模索する。前者は参考文献がこと細かに挙げられた研究書であり、書誌情報の吸いだしは比較的容易だと考えられる。一方、Space, Time, and Architectureには必要量の参考文献情報がない。その各版に対する情報源の探索をいかに高速化し、かつその精度を上げるかが問題である。手元にある文献資料だけでなく、その他の未探査の情報源もありうることを鑑みながら、研究者のかぎられた知識をこえて研究を展開させうるUIの構築をめざす。
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Causes of Carryover |
文献購入について、採用年度にわたり購入計画があるため、本年度分に関して、次年度にまたがる使用額が生じた。 この分については次年度の文献購入費補填分とする。
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