2019 Fiscal Year Research-status Report
南イタリア・プーリア州における農家建築と田園地域の空間構成に関する研究
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19K15194
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Research Institution | Kurume Institute of Technology |
Principal Investigator |
稲益 祐太 久留米工業大学, 工学部, 特任講師 (60832681)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 都市史 / テリトーリオ / 都市組織 / 農家建築 / プーリア / 建物類型 |
Outline of Annual Research Achievements |
南イタリアのプーリア州は、封建的な大土地所有制下での農業が歴史的に行われてきた地域で、農民も都市居住が一般的であった。しかし、その一方で田園地帯にはセメントを用いずに石を積み上げただけの空積みの石造農家である「トゥルッリ」や「マッセリア」と呼ばれる大規模農家など、特徴的な農家建築も存在している。本研究は、それら田園地帯に建つものも含めた農家建築の機能や空間構成、さらに農場内での配置場所の特徴を、現地での実測調査や聞き取り調査によるフィールドサーベイならびに文献史料の両面から解明することを目的とする。郊外への市街地拡大に伴って農家や農地が消滅しつつある現在、現状を記録することは、建築史学の視点から価値付けを行うことは急務となっている。 一年度目の平成31(令和元)年度は、トゥルッリが多く点在するヴァッレ・ディトリアValle d'Itria地方と、オリーブ栽培とオリーブオイル製造が主要産業の一つで、古くから行っているサレントSalento地方でフィールドワーク調査を実施した。 ヴァッレ・ディトリア地方では、トゥルッリが集落を形成されているアルベロベッロとその田園地域で建物の実測調査を行った。その結果、集落内ではもともと単室もしくは2室程度の小規模住宅が多く、後年になって裏庭部分での増築や隣家と室内を繋げて1軒の住宅にする改築が施されていることが明らかになった。また、隣家と壁を接して建っているために、矩形の室内にペンデンティブドームのような形でドームが架けられていることが多い。一方の田園部では、居住空間だけでなく、家畜小屋や食糧貯蔵庫なども備えた部屋が有機的に繋がっており、部屋の形状も円形に近いものが見られた。 サレント地方では、都市内でオリーブオイル製造を行っているガッリーポリGallipoliで調査を行い、大邸宅の地下部分に設けられているオイル製油所を新たに把握することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、バーリ県内のムルジェ台地に位置するヴァッレ・ディトリア地方で現地調査を実施し、成果を得ることができた。集落内の農家建築と田園部の農家建築を比較することができたが、実測物件数が少ないため、文献を用いて検証件数を増やして、さらなる分析が必要になる。アドリア海沿岸地域について未調査であるため、今後の課題としたい。建築空間の変遷についてはヒアリングや実測調査の結果などから推察することができたが、不動産登記台帳などの史料からの明確な回答は出せていない。今後は、史料調査も含めて、現地調査を重ねていくことが必要になる。 それとともに一年度目に、当初の予定に先行してレッチェ県のあるサレント地方の田園地域と都市部との繋がり、テリトーリオを理解するための都市内の産業施設を調査することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
一年度目は、二地域で調査を実施し、実測調査やヒアリングを行った。二年度目はフォッジア県の農家建築と田園地域についてフィールド調査を実施し、平野部が広がる地域での耕作や農業景観、さらに農家建築の空間構造を明らかにしていく。また、一年度目のレッチェ県に関する成果をもとに、田園部の耕作状況や農家建築についてフィールド調査を三年度目に実施する予定である。それとともに、現地での史料調査も行い、現地調査の成果の分析を深めていくことが必要である。 ただ、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、本研究課題において重要な位置を占めるイタリアへ渡航しての現地調査は現在のところ、非常に難しい。そのために、すでに入手している農地の土地台帳や文献を用いて、資料づくりを行うことへ今はシフトしている。
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Causes of Carryover |
一年度目の成果発表としては学会等での講演を予定しており、そのための予算を計上していたが、招待講演者として招かれたことにより予算の支出が抑えられることになった。また、専門知識の提供に対する謝金を計上していたが、今年度は調査に帯同する研究者がいなかったために、予算額との間に大幅な差が生じた。また、物品については、一年度目については特に新たな備品等の購入の必要が無かったため、支出がなかった。
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Research Products
(5 results)