2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of High Reliable Optimization System for Asteroid Deflection Missions
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19K15210
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山口 皓平 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (30808613)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 小惑星衝突回避 / 軌道最適化 / 軌道制御 / 姿勢制御 / スペースガード / 宇宙推進システム / 軌道力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球に衝突する恐れのある小惑星に対して,その軌道変更,ひいては地球衝突を回避する手法に関する研究である.初年度は,宇宙機を小惑星に衝突させる軌道変更手法であるKinetic Impactor(KI)の軌道最適化に関する研究を主に行った.まず,申請者が2018年に発表した独自のKI評価指標であるImpact-Geometry Mapを発展させ,KIによる小惑星の軌道エネルギー変化を最大化する宇宙機の軌道制御則を提案した.また,制御則を発展させた軌道最適化システムを開発した.架空小惑星へのKIミッション設計の結果,軌道変更効果が従来手法と比較して増大することを示した.本成果は,申請者が筆頭著者として学術誌に投稿・掲載された(K. Yamaguchi et al., Journal of Guidance, Control, and Dynamics, 2020).また,国際会議での発表も行った(K. Yamaguchiet al., SciTech2020, Orlando, US). 次に,KIの推進システムとして,宇宙環境由来の自然力である太陽風動圧を用いる可能性を検討した. 太陽風は,太陽から吹き出す高速のプラズマ流である.申請者は,宇宙機から高電位の導電性テザーを展開し,太陽風を受け止めて推力を得る帯電セイルの,KIの推進システムとしての可能性を探った.まず,太陽風とテザーが干渉し,運用中に変形する効果を考慮した新しい推力モデルを提案した.また,モデルを軌道計算コードに組み込み,ItokawaやRyuguといった小惑星への接近が現実的な時間で可能であり,帯電セイルのKIへの利用の可能性を示した.本成果は,申請者が筆頭著者の論文として掲載済みである(K. Yamaguchi, et al., Acta Astronautica, 2019).本年度の成果は,以上である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究については,予定以上の進捗があった.KIの研究に取り組むことは計画書の通りであり,軌道最適化手法の提案と,その効果の実証をシミュレーションによって行った.開発した手法は,宇宙機を小惑星に衝突させる速度の増大ではなく,衝突によって変化する軌道エネルギーの増大を目的とするものである.この結果,衝突速度の増大は必ずしも必須ではなく,衝突時の速度ベクトルの関係がより重要であることを示した.また,数値シミュレーションによる架空KIミッションの設計により,本提案手法が,従来手法と比較して宇宙機の小惑星に対する衝突相対速度を低減しつつ軌道変更距離を増大することが可能であることが示された.衝突相対速度の大小は,宇宙機の最終誘導の難易度を決定し,ミッションの実現可能性を左右する重要な要素である.本成果は,当初の予定には含まれていなかったものの,KIミッションの実現可能性を高める上で極めて重要なものであるといえる.なお,本成果についても,米国宇宙学会の学術誌に掲載された論文で報告している. また,太陽風を使用した推進システムである帯電セイルの研究は,環境由来の推力を用いた推進システムである.こちらのテーマも本来の研究計画には含まれていなかったが,燃料フリーな推進システムのもたらす高効率推進により,KIミッションによる小惑星衝突回避のさらなる可能性を探る目的で行った.本研究では,従来の帯電セイルの推力モデル(Yamaguchi and Yamakawa, 2013)を発展させたより詳細なモデルを提案し,小惑星への接近軌道を最適化する手法で,KIの推進システムとして成立し得ることを示した.本成果についても学術雑誌への投稿・掲載を行っている.
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Strategy for Future Research Activity |
2年目も,当初の研究計画書に従って研究を進める.2年目は,小惑星の近くに質量の大きな宇宙機を停留させ,小惑星との間に働く万有引力で小惑星を長時間けん引・軌道変更する手法(Gravity Tractor: GT)の研究に取り組む.主に,宇宙機の停留軌道の提案と制御則を開発する.また,宇宙機を停留軌道にとどめる際の制御性能を評価関数とした宇宙機の構造最適化に取り組む.構造の最適化については,システムの平衡点周りの安定領域である吸引領域の大きさを評価指標として,その大きさを拡張する構造パラメータを探索する方針であった.一方,高次システムの吸引領域計算は容易でなく,2年目で計算手法を開発する予定であった.本計算手法の開発については,初年度に一部前倒しで進めており,計算用コードの開発が概ね完成している.2年目は,開発したコードをさらに発展させる方策により,GTに関する研究を効率的に進める.本効率化により,可能であれば,3年目に予定していた内容にも一部取り掛かりたいと考えている.
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