2020 Fiscal Year Research-status Report
災害時医療継続マネジメントシステムの実現に向けた教育方法と実証方法の開発
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19K15244
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
梶原 千里 静岡大学, 情報学部, 講師 (70707835)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 災害医療 / 事業継続 / 災害訓練 / 教育・訓練 / 危機意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然災害の多い我が国では,災害時の事業継続性の向上が喫緊の課題である.災害時の医療の継続性を高めるには,関連組織の連携が不可欠であり,地域単位での事業継続マネジメントシステム(以下,地域BCMS)の構築が急務である.本研究の目的は,地域BCMSを関連組織に導入,推進するための教育において,職員の危機意識を向上できるような効果的な教育方法,実証方法を明らかにすることである. 令和元年度に,①BCMSの意義,②災害対策本部の運営,③停電や断水発生時の病棟業務への影響の3つを取り上げ,それぞれの教育方法を検討した.令和2年度は①,②の教育を実施するとともに,効果を評価するためのデータを収集し,その分析を行った. まず,①はスライド教材とテストを作成し,eラーニングで教育した.受講終了後に,受講状況が記録されたeラーニングのログデータを分析し,各設問の正答率を算出した.その結果,狙い通りに教材やテストを作成できていることが明らかとなった.今後は,正答率の低かった設問を改良する. 次に,②は状況付与判断演習と全職種が参加する大規模訓練で教育を行った.その実証方法として,危機意識と行動の変容度を評価するための方法を確立した.具体的には,まず,人間の危機意識や行動が変化するまでのメカニズムを明らかにした.これには,危機意識や行動の変容が生じるまでのプロセス,危機意識や行動に影響を及ぼす要因やその関係性が示されている.これに沿って,危機意識や行動の変化,ならびに,要因の当てはまり具合を問うアンケートを作成した.これを大規模訓練の参加者に配布し,229名の回答を得た.回収率は67.6%である.このデータを解析した結果,回答者の90.8%は訓練によって危機意識が向上していたが,そのうち行動変容に至っている人は58.7%であった. ③は令和3年度に検討,実施予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
医療従事者向けの教育とその実証をテーマとしているため,新型コロナウィルス感染症の影響を大きく受け,当初計画で予定していた対面での教育が実施できないことが最大の理由である. このような状況ではあるが,eラーニングの活用や情報システムを活用したアンケートの実施などによって,教育の一部は実施でき,実証に必要な評価データは得られている.また,新型コロナウィルスへの対応は災害対応のひとつとも言われているため,現在の対応状況をヒヤリングし,危機意識・行動変容メカニズムの作成に活かすといった工夫も行っている.以上のことを総合的に判断して,「おおむね順調に進展している」を選択した. 引き続き,対面での教育や演習の実施は困難なことが予想されるため,非対面で実施できる教育を計画,実施していく.
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は,1)令和2年度に実施した教育の継続と評価データの時系列変化の確認,2)危機意識・行動変容の評価方法の改良と再試行,3)危険予知トレーニングを応用した教育方法と実証方法の検討と実施の3点に取り組む. 1)は,eラーニングと大規模訓練を実施予定である.令和2年度の評価データを分析し,改善点は明らかになっているため,それを反映させた教育を実施する.そして,令和2年度と同様の方法で評価データを収集し,時系列変化を分析することで,教育効果を実証する. 2)は,まず,令和2年度の危機意識・行動変容アンケート結果を詳細に分析し,評価方法の原案の問題点とその改善方法を明らかにする.その結果に基づいて評価方法を改良し,1)の大規模訓練実施後にアンケートを行い,回答データを収集する.改良した方法で危機意識や行動の変容度を評価するとともに,令和2年度の結果と比較する方法を検討し,時系列変化の有無を確認する.これらをまとめて,危機意識・行動変容度の評価方法を確立することを目指す. 3)は,研究実績の③をテーマとした教育を危険予知トレーニングの方法を応用して実施する.具体的には,災害の発災前の病院内の写真を示し,停電や断水が発生した場合,どこにどのような影響が及ぶかを想定して,発言してもらう教育方法を考えている.これを複数の写真を用いて,定期的に実施することで,影響を想定する能力が向上するか否かを確かめる.また,その前後で2)のアンケートを実施できるようであれば行い,大規模訓練とこの方法のどちらのほうが危機意識や行動の変容に繋がるのかを明らかにする. 新型コロナウィルスの状況によっては対面での教育や調査が実施できない可能性があるため,引き続きオンラインでの実施方法を検討する.特に3)はOJTで行うことを予定していたが,現在の状況では難しいため,代替手段を考える必要がある.
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響により,成果発表を予定していた学会が中止,あるいはオンライン開催となり,旅費や参加費が不要となったため,次年度使用額が生じた.また,対面での教育や演習が実施できなくなり,購入を予定していた消耗品が不要となったことも一因である. 令和3年度は,ワクチンの接種が進めば,対面での学会や打ち合わせが実施できる見込みであるため,そのための旅費や参加費にあてる.また,教育を実施できた場合には,必要物品の購入や,評価データの解析を行う研究協力者への謝金に使用する.オンライン教育を実施できるようであれば,それに使用するためのパソコン,カメラ,マイク等を購入する.
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Research Products
(3 results)