2019 Fiscal Year Research-status Report
津波脆弱性評価の深化に向けた津波土砂移動氾濫モデルの標準化
Project/Area Number |
19K15259
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山下 啓 東北大学, 災害科学国際研究所, 准教授 (00772633)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 2011年東北地方太平洋沖地震津波 / 気仙沼湾 / 現地調査 / 地形変化 / 底質 / 海底基盤 / 津波移動床解析 / 市街地氾濫解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
2011年東北津波によって大規模な侵食を受けた気仙沼湾狭窄部海底を対象に,被災後8年が経過した2019年時点における地形や底質環境の実態と,海底基盤岩分布を把握するための現地調査を実施した.調査内容として,音響測深による水深調査,音波探査機による海底地質構造調査,および柱状採泥や表層堆積物採取による海底堆積物調査を行なった.その結果,震災以降に気仙沼湾狭窄部とその北側が更に侵食を受けている他,狭窄部中央付近に堆積が認められた.また狭窄部周りの調査範囲の海底には,一般的な港内にあるヘドロ性状の浮泥堆積物は確認されず底質環境は比較的良好であった.更に調査範囲全体の海底には硬い層が表層部に存在する他,特に狭窄部では礫質堆積物または基盤が露出していることがわかった.これらの調査結果に基づき海底基盤分布を推定し,2011年東北津波を対象とした津波移動床モデリングに非侵食面データとして導入した.その結果,巨大津波により狭窄部では基盤が剥き出しになるほどの侵食が生じ,侵食分布は基盤地形にほぼ規定されていたことが明らかになった.これまで,現地の海底基盤分布を考慮した津波移動床モデリングの検証事例はないため,モデリング結果の誤差が何に起因するのか不明確な部分もあったが,本研究により海底基盤データの調査・導入は,津波移動床モデリングと,それに伴うリスク評価の精度向上にとって重要な要素になりうることがわかった. 更に,高密度市街地における土砂移動を伴う津波氾濫解析の確立に向けて,まず,破壊をも伴う多様な建物影響をモデル化するために,建物群を多孔質媒体でモデル化したポーラスモデルに基づく平面2次元数値モデルのプロトタイプを開発した.本手法は一般的な津波浸水解析モデルに従来スキームを変更することなく実装可能で,高密度市街地の津波ハザードを評価する高度で実用的なモデルへの発展に繋げられると期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現地調査に関しては,気仙沼湾における海底基盤の面的把握のために音波探査やボーリング調査等の現地調査を実施した.そして,調査結果を分析することで海底地質構造や海底基盤分布を推定することができ,計画した調査・分析内容を滞りなく終了した.また,本調査結果を既往の調査結果と比較することで,被災後地形の変移状況や底質環境に関する,当初計画していた以上の検討を追加することができた. 数値解析に関しては,本調査より推定された海底基盤データを活用して,2011年東北津波による津波移動床モデリングを再検証した.その結果,海底基盤データを活用することによって気仙沼湾の大規模侵食分布を説明可能であることがわかった.現地調査を踏まえた数値モデルの再検証は計画通りの進展である.また,津波土砂移動氾濫解析の高度化に向けて,破壊をも伴う多様な建物影響をモデル化するために,建物群を多孔質媒体でモデル化したポーラスモデルに基づく平面2次元数値モデルのプロトタイプを開発し,高橋ら(1999)に基づくMPI並列化された津波土砂移動モデルに実装した.本モデルでは,建物の流体抵抗のみならず遮蔽効果の時間変化も導入した建物の破壊過程と,こうした市街地での土砂移動流れを考慮する点に新規性があり,時々刻々の津波ハザードに応じて,建物の流体抵抗と遮蔽効果が変化するように多孔質媒体の物性値をモデル化した.当初計画では,2019年度~2020年度前半に,理論モデルの定式化・理論モデルの数値モデルへの実装・数値モデルのV&Vを終了させることを目標にしている.2019年度終了時点で「理論モデルの数値モデルへの実装」に関する主要部分が終了しており,順調な進捗である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後,津波土砂移動氾濫解析モデルに関する研究開発に集中する.2019年度に試作した,ポーラスモデルに基づく建物破壊を考慮した市街地津波氾濫モデルを踏まえ,2020年度前半にこのポーラスモデルを土砂移動モデルに拡張することで,土砂輸送を伴う市街地津波氾濫の効果的な解析ツールを開発する.まず,理想地形における高密度市街地を対象にして従来モデリングと比較して,本モデルの動作確認や土砂移動氾濫特性について調査する.次に,2011年津波における気仙沼市における津波土砂移動氾濫解析を対象に,2019年現地調査で得られた海底基盤データの導入と,既往の気仙沼建物被害実績に基づく被害関数を用いた建物の破壊過程も含めた提案モデルの妥当性確認を行なう.そして,気仙沼事例における土砂輸送・地形変化や建物が及ぼした津波ハザードへの影響を明らかにする他,南海トラフ巨大地震における津波土砂移動氾濫解析に適用し,津波ハザードの再評価を検討する予定である. 2019年度に整理した現地調査や基盤データを考慮した津波移動床モデリングについては,現在査読付き論文に投稿中である.
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Research Products
(9 results)