2020 Fiscal Year Research-status Report
超高齢社会を支える医療・福祉・防災支援のための実態把握と計画策定システムの開発
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19K15263
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
藤生 慎 金沢大学, 融合科学系, 准教授 (90708124)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 災害時要配慮者 |
Outline of Annual Research Achievements |
要支援者名簿には記載されていない避難行動要支援者(以下,要支援者)の地域存在量数の把握を目的とし,本研究では,医療ビッグデータである国民健康保険データ(以下,KDBデータ)を活用する.KDBデータの詳細に関しては,4章において記述する.本研究における分析の流れを図1に示す.はじめに,KDBデータを用いて,本研究における要支援者の算出基準の設定を行う.本分析においては,ICD-106)(WHOが定めた疾病の世界的分類基準)を活用した,75歳以上かつ下半身の整形外科系疾患患者を要支援者と設定し,町字単位の算出を行っている.なお,分析対象疾患を「下半身の整形外科系疾患患者」と限定した理由としては,避難行動は,運動器の障害の有無に大きく依存し,特に下半身の障害が避難行動に大きな影響を及ぼしていると考えるためである.したがって避難行動の根底をなす「下半身の整形外科系疾患患者」のみに着目し,算出を行う.また,次に,ArcGIS Network Analystを用いて,各町字における最寄りの指定避難所までの距離の代理指標を作成する.詳細は後述するが,KDBデータを用いて算出された要支援者が,地震災害時において歩行する可能性のある距離を算出することによって,より詳細な地域評価を実施することを目的とし,代理指標の作成を行っている. 以上の分析を踏まえ,KDBデータを用いた要支援者の算出に加え,避難行動時の危険性としての「最寄りの避難所までの距離」を踏まえた,地域評価を行うことを本研究の目的とする.なお,本研究における「避難行動」とは,地震動が収まった後に,停電や余震の心配などから避難生活を送るための指定避難所へ移動することを想定している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では,国民健康保険のデータベースを用いて,石川県内の各自治体と連携を取りながら,研究を進めている.KDBデータを用いた研究では,地域に存在している災害時要配慮者の分布を定量的に把握することが可能となった.さらに,住民基本台帳データ,市民全員を対象としたアンケート調査等を包括的に利用することによって,研究計画以上の成果を出すことが可能となった.さらに,人工衛星を活用した研究にも取り組み,大規模な災害時において,災害時要配慮者の存在位置やニーズを把握するツールの開発にも取り組んだ.その結果,NEC・RESTEXとの共同研究も実現し,リフレクターと呼ばれる災害時要配慮者を大規模災害時に助ける補助ツールの開発に成功し,特許を出願するに至っている.さらに,この研究成果が取りまとめられ,インパクトファクターの高い英文ジャーナルに登載が決定している.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究における分析を通して,KDBデータを活用することによって,避難時に困難を要すると考えられる要支援者の中でも,損傷部位にまでフォーカスを当てた対象者の絞り込みが可能となった.この情報に,「指定避難所までの距離」,「想定される地震動」,「医療点数」の情報を付与することによって,詳細な地域評価が可能となったと考える. また,KDBデータより抽出された,「75歳以上の整形外科系疾患患者」は,羽咋市内で1,717名存在していることが明らかとなり,対象者が患う疾患名,損傷箇所,年齢,性別等も把握可能となった.また,想定される地震動を考慮した際の町字単位の地域評価に加え,医療点数(重症度)を考慮に入れた個人ベースの評価についても実施した.その結果,羽咋市内において,医療点数が高いと考えられる者(約10,000点)は36名存在していることが明らかとなった.本研究の成果である地域評価を行うことによって,各自治体で働く保健師・防災担当などに向けて,これまで把握がなされてこなかった疾患別・重症度別(医療点数別)等の要配慮者数の情報を伝えることが可能となると考える. KDBデータを用いて,特に整形外科系疾患患者にフォーカスを当てたデータ抽出を行ったが,KDBデータにはさらに多くのデータ項目が存在する.今後の課題としては,KDBデータより算出可能な災害時要配慮者属性の整理を行い,パーキンソン病,脳血管疾患による後遺症患者など,分析対象疾患の拡大を行っていく必要がある.また,本研究では,KDBデータに付与する情報として,「指定避難所までの距離」を採用したが,今回用いた代理指標は非常に簡易な指標であるため,建物倒壊による道路閉塞などを考慮し,より地震災害時の状況を考慮した精緻化は必須である.データ対象範囲の増加を行うことによって,本研究で対象とした要支援者数の精緻化を行っていく必要がある.
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Research Products
(5 results)