2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K15279
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
山下 享介 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 博士研究員 (20829080)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中性子回折 / その場観察 / デジタル画像相関法 / 高強度鋼板 / 加工誘起変態 / リューダース変形 / 結晶方位 / 加工硬化 |
Outline of Annual Research Achievements |
第3世代高強度鋼板として期待される5~10 mass%のマンガンを含む中Mn鋼では、変形中に断続的に生じる局所変形下においてオーステナイト(γ)がマルテンサイトへと加工誘起相変態することが報告されている。しかしながら、従来の手法では測定領域にて生じた局所変形を同定できず、局所変形中の加工誘起相変態挙動の詳細は不明瞭である。本研究では、引張変形中その場中性子回折による各相の応力とひずみの関係、結晶方位およびγ量の変化の調査とデジタル画像相関(DIC)法および赤外線サーモグラフィを用いた局所変形の同定を同時に行い、局所変形下の加工誘起相変態挙動を検討し、中Mn鋼の優れた強度と延性の発現メカニズムに対する加工誘起相変態の役割の明確化を行う。 初年度において実施した内容は以下の通りである。 (1)J-PARC内の工学材料回折装置「TAKUMI」が所有する変形試験機にCCDカメラおよび赤外線サーモグラフィカメラを併用するための治具を製作し、引張試験中の試験片表面のひずみ分布状態および温度変化の測定が可能な環境を整えた。 (2)熱処理温度の異なる同一組成(0.15C-0.44Si-4.95Mn)を有する3種類の中Mn鋼を作製・試験片加工を行い、(1)で構築した環境を用いてDIC法+赤外線サーモグラフィを併用した引張試験を実施し、基礎的なデータを取得した。いずれの中Mn鋼も塑性変形の開始直後局所変形(リューダース変形)を生じ、リューダース変形の通過後では非常に高い加工硬化を示した。 (3)(2)にて取得した機械的性質の結果から適切な試験条件を選定し、DIC法および赤外線サーモグラフィを併用した引張変形中その場中性子回折試験を実施した。いずれの中Mn鋼においても中性子回折の測定領域にてリューダース変形が通過した直後に、大半のγが加工誘起相変態を生じていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DIC法および赤外線サーモグラフィを併用した引張変形中その場中性子回折試験を当初の計画通り初年度内に遂行できている。DIC法および赤外線サーモグラフィから得た試験片表面のひずみ分布状態および温度の変化を解析した結果、リューダース変形およびその後に生じた局所変形の発生時期とマクロな応力―ひずみ曲線において応力変動が生じた時期には良い対応関係が確認でき、局所変形の同定に成功している。また、リューダース変形帯がその場中性子回折の測定領域を通過する前後のその場中性子回折のデータを簡易的に解析したところ、リューダース変形の通過前までγは変態せず、通過直後に大半のγが変態していた。このとき、リューダース変形の通過後でも残存していたγの多くは、引張軸に対し特定の結晶方位を有する傾向が確認された。これは中Mn鋼においてもγの相変態の安定性に対して結晶方位が影響している可能性を示唆するものであり、局所変形中のγの加工誘起相変態を議論する上での新たな知見となることが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である令和2年度では以下のように研究を遂行する。 (1)初年度で実施した引張変形中その場中性子回折試験より得られたデータに対しRietveld解析ソフトウェアを用いた解析を行い、変形中の各構成相の格子ひずみ、γ量、結晶方位および回折ピークの半値全幅の変化を評価することで、各構成相の変形挙動およびγの加工誘起相変態挙動の明確化を行う。 (2)DIC法および赤外線サーモグラフィより得られた試験片表面のひずみ分布状態および温度の変化をより詳細に解析するとともに、それらの結果とその場中性子回折の結果とを「時間」を軸として対応させることで、その場中性子回折の測定領域にて生じた局所変形を正確に同定し、局所変形下のγの加工誘起相変態挙動を明確化する。 (3)(1)および(2)の解析結果をフィードバックした引張変形中その場中性子回折試験を行い、得られた結果の再現性および妥当性を検討する。また、供試鋼(リューダース変形の異なる中Mn鋼)や試験条件(ひずみ速度)を変えた引張変形中その場中性子回折試験を行うことで、局所変形下の加工誘起相変態挙動に関する知見を追加する。 (4)上述の実験結果を総括し、学会発表などを通して成果を公表していく。
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Causes of Carryover |
初年度において供試鋼の製作時期が遅れ、初年度に計画していた数量の試験片の準備ができなかった。加えて、デジタル画像相関(DIC)法および赤外線サーモグラフィを併用した引張変形中その場中性子回折試験を実施できる環境を整えることはできたが、DIC法を実施する上で最適な解像度を有する画像を取得するための適切なCCDカメラの選定およびマクロなひずみを取得するための伸び計の選定が行えなかった。上述の事由により物品費に次年度使用額が生じてしまった。また、新型コロナウィルスによる自粛に伴い、学会、研究会および研究打ち合わせなどの活動が行えず旅費にも次年度使用額が生じた。 次年度使用額と令和2年度分研究費を合わせた令和2年度における助成金の使用計画は大きく分けて6つの用途を考えている。初年度の結果を踏まえ、局所変形下の加工誘起相変態挙動に関するさらなる知見の取得を目的としたその場中性子回折試験を実施するために、(1)試験片作製、(2)最適なCCDカメラの選定・購入、(3)測定ゲージ部が長くDIC法の測定を阻害しない伸び計の購入、(4)その場中性子回折試験中にDIC法によるひずみ測定をより正確に行うための特注の定規の製作、(5)データ解析用PCのメモリ、ストレージの拡張を行うとともに、(6)学会活動などへの参加を行う。なお、新型コロナウィルスの状況次第では、主に旅費の用途を大幅に変更する可能性がある。
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