2019 Fiscal Year Research-status Report
アルカリ浴を用いた亜鉛の低電力電解採取に関する基礎的研究
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19K15333
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岸本 章宏 京都大学, 工学研究科, 助教 (50816600)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 亜鉛 / 電析 / その場観察 / アルカリ |
Outline of Annual Research Achievements |
亜鉛の製錬・リサイクルプロセスの効率化のため、当該研究ではアルカリ性水溶液を用いた亜鉛の湿式プロセスに関する研究を進めている。従来の硫酸酸性水溶液からの亜鉛の電解採取では亜鉛が層状かつ緻密に析出するが、アルカリ性水溶液からは多孔質またはデンドライト状の亜鉛が析出することが知られている。多孔質な析出物では電解後の洗浄が煩雑となり、溶液の随伴による薬剤コストの増加も懸念される。このような金属の電析形態の差異は学術的にも大変興味深いが、その要因についてはよく分かっていない。そこで、本年度は光学顕微鏡を用いた亜鉛の電解析出のその場観察に着手した。 実験では共焦点レーザー顕微鏡またはデジタルマイクロスコープを使用し、電解セル中で進行する亜鉛析出の様子を直接観察した。電解セルは石英製カバーガラス、ポリカーボネート製の基板とカバー、EPDM製ゴム板を組み合わせて作製されており、幅15mm×長さ65mm×高さ1mmの流路に電解液を一定速度で流した。作用極には直径1mmの多結晶亜鉛線を、参照極には銀-塩化銀電極を、対極には亜鉛棒を使用し、電解液には酸化亜鉛を溶解させた硫酸酸性水溶液または水酸化ナトリウム水溶液を使用した。なお、このセットアップについては電流密度分布シュミレーションを行い、作用極上ではほぼ均一に電流が流れることを確認した。 多結晶亜鉛を作用極に用いた電解試験では、硫酸酸性ならびにアルカリ性水溶液のいずれの場合でもinstantanious型の核生成が確認された。その後、硫酸酸性水溶液ではすべての核が水平方向へほぼ等方的に成長し、その析出物は緻密かつ層状であった。しかし、アルカリ性水溶液では析出した亜鉛の核には成長するものとしないものがあり、水平方向ではある特定の向きに優先的に成長した。このような亜鉛の成長の仕方の違いが、両電解浴での亜鉛の析出形態に関与していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は亜鉛の電解析出のその場観察を実施するため、専用の電化セルの設計・開発と適切な観察条件を確立した。本実験は光学顕微鏡を用いたその場観察を行うため、顕微鏡の対物レンズ-作用極間の距離を数mm以下にする必要がある。また、電解液の流路が狭いため、電極近傍の物質輸送を促進するため、電解液を連続的にフローすることが望ましい。さらに、腐食性の高い硫酸酸性および強アルカリ性水溶液中でも長時間安定な材料を使用しなければならない。適切な材料の選出とセルの基本設計は完了し、溶液の送液システムの構築、光学顕微鏡へのセルの取り付け、電気化学測定装置と観察セルとの接続を順調に確立することができた。また、このようなセットアップを用いて硫酸酸性ならびにアルカリ性水溶液中での多結晶亜鉛線での亜鉛の析出過程も観察した。すでに2-10μmスケールの解像度で亜鉛析出の様子を観察することに成功しており、数種の電流密度で亜鉛が析出する様子を比較することも達成することができた。以上のような理由から、本研究は概ね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに電解析出の様子を数μm-数mmのスケールで観察するためのセットアップが完成しており、多結晶亜鉛上への亜鉛析出については数種の電解条件での比較も進められている。その中で、アルカリ性水溶液中では特定の核がある方向に優先的に成長する様子が確認された。このような結晶成長の異方性は、溶液のpHや共存するイオン種の影響(溶液側の因子)、電流密度、作用極基板の結晶性や配向性、粒界の有無(基板側の因子)が影響していると考えられる。そこで、次年度はこのような影響因子について調査するため、まずは亜鉛の単結晶を作製して単結晶亜鉛電極を準備する。この単結晶亜鉛上への亜鉛の電解析出を順次行い、同様のセットアップを用いてその様子を観察する。これにより、核生成の様子や配向性、亜鉛の成長の特性について、基板側の因子の影響を明らかにする。また、これらの知見を踏まえて溶液側の因子の影響についても検討する。 なお、次年度以降はアルカリ性水溶液中での亜鉛の浸出・浄液工程に関する調査に取り組む予定である。特にアルカリ性水溶液からのマンガン不純物の除去については過去の報告が極めて少ないため、まずは空気酸化による沈殿除去の可能性について実験的に調査する。なお、本実験では温度やpH等の溶液の条件が大きく影響すると考えられるため、それぞれ組成の異なる少量の溶液に対してブロックバスシェーカー等を用いた試験を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は国内学会ならびに2度の研究会の開催が直前に中止された。そのため、それぞれの旅費ならびに参加費として計上していた本年度研究費の一部を次年度にやむなく使用することとなった。次年度は亜鉛の電解析出試験に加え、浄液試験に使用する試薬や配管継ぎ手部品、ブロックバスシェーカー等の多数の消耗品が必要となる。特に浄液試験ではセットアップを複数用意することで実験の進捗が大幅に速まることが期待できるため、次年度使用額についてはこれらの消耗品を新たに購入し、研究の効率化を進める予定である。
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