2019 Fiscal Year Research-status Report
石炭由来タールの特異な溶剤特性を制御した褐炭からの高品位炭と機能性炭素材料の製造
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19K15346
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
吉川 琢也 北海道大学, 工学研究院, 助教 (20713267)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 低品位炭 / 改質 / 混合溶媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
埋蔵量が豊富であるものの水分・酸素分が多いため用途が限られる低品位炭の利用促進技術として、溶剤中での加熱処理により効率的な脱酸素を行う溶剤改質が有望である。本研究では、処理溶剤として水と石炭由来タールの混合溶媒に着目し、その特性を制御することで、高品位な改質炭および抽出物から炭素材料原料を製造する。 石炭由来タールの一つであるカルボル油の詳細分析を行い、主要成分として、ナフタレン類、フェノール類、インデン類、スチレン類を同定し、その他ピリジン類、ベンゾフラン類などの極性成分を含有することが分かった。主要成分をトルエンに添加して調製したモデル溶剤を用いて褐炭の改質反応を行った。改質炭の炭素収率は、添加成分により大きく異なり、スチレンとインデンの場合100%を上回り、改質炭に溶剤成分が付加したことを示した。カルボル油を用いて溶剤/原料比(重量比)を変化させた反応において、O/C(元素比)対H/C(元素比)のプロットにより、いずれも瀝青炭クラスの改質炭が得られた。改質炭の炭素収率は、溶剤/褐炭比を増加させるに従い、80~95%の範囲で増加傾向を示し、モデル溶剤を用いた反応結果を支持した。改質炭の特性評価は、上記元素分析に加え、工業分析、酸化試験を行った。結果、改質処理により、揮発分が減少し固定炭素分が増加したこと、酸化分解を受けにくくなったことが分かった。 水/テトラリン混合溶媒をモデル溶剤として用いて褐炭の改質処理を行い、得られた油相抽出物、およびその溶剤分画物の軟化溶融温度(Tm)を評価した。種々の溶剤を用いた溶剤分画により得られた不溶分のTmは、分画前と比較し上昇し、特に極性溶剤を分画溶剤に用いた場合に顕著であった。Tmの上昇は、極性成分を含む低分子量成分が除去されためであることが示唆され、使用する分画溶剤によりTmを制御できる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
褐炭を石炭由来タールと水の混合溶剤中で処理することにより高品位炭へ改質するとともに、油相抽出物の炭素材料原料としての利用に向けた特性評価を実施した。 石炭由来タールの一つであるカルボル油の詳細分析を行い、主要な成分として、ナフタレン類、フェノール類、インデン類、スチレン類に加え、ピリジン類、ベンゾフラン類などの極性成分を含有することが分かった。溶剤/褐炭(重量比)を0.1~5.0の範囲で変化させて得られた改質炭は、O/C(元素比)対H/C(元素比)のプロットにより、いずれも瀝青炭クラスであった。溶剤/褐炭(重量比)を増加させるに従い、改質炭の炭素収率は、80~95%の範囲で増加傾向を示した。炭素収率の増加は、カルボル油中の主要成分をモデル溶剤に用いた反応結果を支持するものであった。 改質炭の特性評価は、上記の元素分析に加え、工業分析を行い、改質により揮発分が減少し固定炭素分が増加したことが分かった。また、熱重量分析計を用い、空気流通下約200℃において酸化試験をで行った。24時間経過後の重量減少率は、原料褐炭が20 wt%であったのに対し改質炭は4 %に減少し、改質反応により酸化分解を受けにくくなったことが示された。 モデル溶剤として水/テトラリン混合溶媒を用いて改質処理を行った。得られた油相抽出物から溶媒除去後、極性の異なる種々の溶剤を用いて分画を行い、分画物の軟化溶融温度(Tm)をホットプレート上での加熱試験により評価した。溶剤分画で得られた不溶分のTmは、分画前と比較し上昇し、特に極性溶剤を分画溶剤に用いた場合に顕著であった。Tmの上昇は、極性成分を含む低分子量成分が除去されたためと推察された。分画溶剤の極性を変化させることで、抽出物の軟化溶融性を制御できることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
カルボル油の詳細分析により、主要成分(ナフタレン類、フェノール類、インデン類、スチレン類)を同定し、それらをトルエンに添加したモデル溶剤を用いて改質反応を実施し、各成分の改質反応に及ぼす影響を明らかにした。より詳細に改質経路を解析するため、カルボル油中のその他の成分を含むモデル溶剤を用いた改質反応を行う。特に、褐炭の可溶化(抽出)に寄与すると考えられる極性成分(窒素、酸素を含むピリジン類、ベンゾフラン類など)を中心に反応を実施する。褐炭は、複雑な構造を有するため、詳細な化学構造を把握することは難しい。そこで、褐炭および改質炭の表面官能基に着目し、IR、NMR等を用いた分析を行い、改質前後における官能基の挙動を解析する。上記の溶剤成分、褐炭、改質炭の解析結果を統合し、水/カルボル油溶媒を用いた褐炭の改質モデルを提案する。 改質により得られた油相抽出物に対し、種々の溶剤を用いて溶剤分画を行ったところ、溶剤不溶分の軟化溶融温度が大きく変化することを見出した。元素分析、分子量分布測定を含む分画物の詳細分析により、溶剤特性と分画物の関係を把握する。得られた結果に基づき、抽出物が所望の軟化溶融温度を示すよう分画溶剤を最適化する。さらに、抽出物を溶融紡糸により繊維化し、その機械的特性を評価する。
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Causes of Carryover |
欧州での技術調査を予定していたが、新型コロナウィルスの発生により取り止め、文献調査を行うことで補った。令和2年度に国際学会での成果発表を予定しており(26th International Symposium on Chemical Reaction Engineering、2020年12月、India)、その際に最新の研究動向についても調査することとする。
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