2020 Fiscal Year Research-status Report
ソフト界面で自発重合する環境適応型導電性マテリアル合成プロセスの革新
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19K15353
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Research Institution | Oyama National College of Technology |
Principal Investigator |
加島 敬太 小山工業高等専門学校, 物質工学科, 講師 (90710468)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | enzymatic synthesis / PANI-ES / aniline / polyaniline / laccase / AOT / vesicle / template |
Outline of Annual Research Achievements |
導電性ポリアニリンは溶媒への分散性に優れ、応用の可能性に富んだ導電性高分子である。ポリアニリンは酸化状態によって4種の状態を取り、導電性を示すのはアニリンが直鎖状にN-C-para結合し、かつ半酸化状態が保たれたポリアニリンエメラルジン塩(polyaniline emeraldine salt form, PANI-ES)のみである。既往の合成法では二クロム酸ナトリウムや過硫酸アンモニウム等の酸化剤を用いて、pH 1~2の強酸性条件、および-20℃以下の低温条件下にて、アニリンを酸化重合させることでPANI-ESを得ることができる。 本研究では、温和な条件で反応が進行する酸化還元酵素を触媒としたアニリン系基質の酸化反応に、流動性を有するソフト界面をテンプレートとして分散させることで、緩衝液中で原料を混合し、室温で静置するだけでPANI-ESを選択的に合成するプロセスの構築に取り組んでいる。これまで、アニリン二量体を基質としたラッカーゼと酸素による酸化反応に、アニオン性界面活性剤で形成させたベシクルを分散して導入することで、pH 3.5で調製した室温の緩衝液中でPANI-ESを選択的に合成できることを明らかにしてきた。より社会実装に向けたプロセスの最適化として、食品工業で用いられている酵素製剤のラッカーゼが本反応系で十分に触媒となり得ることを実証するとともに、アニリンとアニリン二量体の複合基質系の適用による生成物の安定性向上を見出した。アニリンとアニリン二量体の混合比を変化させることで、生成物に含まれるラジカルカチオン量が変化することを明らかにするとともに、生成したラジカルカチオンが長期安定する最適反応条件を見出した。また、本研究で用いた食品工業用ラッカーゼの分子量を測定することでモル濃度での制御を可能とし、ナノモルレベルでの酵素濃度の最適化を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
食品工業用ラッカーゼを用いたアニリン/アニリン二量体の酸化反応に、アニオン性界面活性剤であるbis(2-ethylhexyl)sulfosuccinate sodium salt (AOT)で調製したベシクルをテンプレートとして導入することで、導電性を有するポリアニリンエメラルジン塩(polyaniline emeraldine salt form, PANI-ES)の合成を達成した。このとき、アニリンとアニリン二量体の混合比をモル基準で制御して反応に供することで、ポリアニリンの導電性を担うラジカルカチオンの生成量が最大となる基質濃度条件を見出した。反応性の高いラジカルカチオンは生成物中で酸化が進行し導電性は失われるが、複合基質系で得られた生成物はラジカルカチオンが長期に亘って高い水準で維持された。また、2,2′-Azino-bis(3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonic acid) diammonium salt (ABTS)を基質とした酸化反応から、食品工業用ラッカーゼが十分な酸化活性を有していることを明らかにした。食品工業用ラッカーゼの適用と複合基質系によるPANI-ES合成の優位性を明らかにした。 さらに、食品工業用ラッカーゼの分子量を測定し、モル濃度基準で酵素濃度を制御した反応を検討した。種々の酵素濃度で得られた反応生成物の紫外可視近赤外域における吸光スペクトラムから、反応速度と平衡時におけるラジカルカチオンの生成を評価することで、ナノモルレベルでの最適濃度を決定した。また、生成物の電子スピン共鳴測定より、ラジカルカチオンの生成を確認し、吸光スペクトラム測定による結果と一致することを明らかにした。 また、本手法の応用としてフェノールの酸化反応に着手し、緩衝液の反応条件によって酸化が進行することを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
テンプレートを導入した酵素反応によるPANI-ES合成プロセスの構築に向けて、複合基質としてのアニリン/アニリン二量体の混合比、並びに酵素濃度の最適化を達成したことから、この反応系におけるPANI-ES生成の多面的な評価を進めていく。最適条件における反応生成物の経時変化を、紫外可視近赤外分光光度測定、電子スピン共鳴測定、液体クロマトグラフィー質量分析により詳細に検討する。反応のカイネティクスを把握することで、アニリンとアニリン二量体の複合基質がベシクル界面で酸化されて自発的に重合が進行する機構を解明し、工業プロセスへの礎とする。 また、本反応系で得られる生成物は、水溶液への分散性に優れており、また安定性にも優れている。そこで、この生成物を用いた応用として、フィルム化とインクジェットプリンタビリティの検証を行う。フィルム化には、種々の高分子を膜基材として選択して適用し、再現性と導電性が発揮される製膜方法を検討する。また、インクジェットプリンタビリティの評価として、水溶液で得られる反応生成物を用いた印刷と、印刷物の導電性評価を検討する。 本研究で取り組んでいるソフト界面を導入した酵素反応は、アニリン系基質の酸化反応に集中して研究展開されている。そこで、より広い応用の可能性として、アニリン系以外の基質を用いた反応に取り組む。これまで、チロシンとフェノールの酸化について可能性を見出しており、生成物の詳細な検討と反応条件の最適化に取り組む。
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Research Products
(4 results)