2019 Fiscal Year Research-status Report
基質特異性の理解に基づく酵素変異体の合理的な設計手法の確立
Project/Area Number |
19K15371
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
森 裕太郎 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 特別研究員 (50758539)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 酵素の合理的設計 / 基質特異性 / ピルビン酸脱炭酸酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、持続可能な環境調和型社会の実現に向けて、目的化合物の生産量を向上させることを目的として、高活性な酵素変異体を合理的に開発するための設計戦略の確立を目指す。具体的には、ピルビン酸脱炭酸酵素 (PDC) を鋳型酵素として選択した。PDCは様々な置換基を持つ基質からの脱炭酸が報告されていることから、様々なPDCを用いた基質スクリーニングから得られた酵素反応特性(脱炭酸反応が進行するかどうか、また反応速度)と酵素-基質結合モデルとの比較を行うことで、基質特異性に関わる要素の抽出とそれに基づいた高活性な変異体設計のためのルール構築を行う。 本年度はまず、複数種類のPDCについて検討し、本来の基質を用いた活性測定を行うことで大腸菌での活性型での発現が可能かどうかを確認した。その結果、大腸菌以外を由来とするPDCについて、脱炭酸反応後の生成物であるアルデヒド化合物が検出されたことから、大腸菌を用いたタンパク質発現に成功したと判断した。 タンパク質の合理的設計(変異体の構築)により、目的のタンパク質機能を向上させる研究においては、変異箇所の絞り込みを行うためにタンパク質の3D情報が必須である。特に結晶構造が解析されていないタンパク質について、構築した3D結晶構造モデルを元にした変異体設計戦略を確立することは、学術的に重要である。そこで、次にそれら複数種類の中から1つPDCを選択し、3D結晶構造モデルの構築および変異体構築と活性測定を行うことで、構造モデルの妥当性について検討を行った。その結果、基質認識に重要なアミノ酸残基を潰す変異を導入した場合、活性の欠落を確認するとともに、いくつかの基質結合部位への変異導入により、天然の基質に対する脱炭酸能力の向上を達成した。 今後はすでに結晶構造が解明されている酵素との比較から妥当性を評価するとともに、他の由来のPDCについても検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、高活性な酵素変異体を合理的に開発するための設計戦略の確立を目指し、コンピューターシミュレーションを基にした変異体の構築とそれによる活性の向上・低下について検討を行う。 本年度は上記検討のために必要となるスクリーニング手法の確立のため、タンパク質発現と活性測定、および3D結晶構造モデルの構築および妥当性の評価を行った。当初の予定であれば、実験に用いるすべてのPDCの3D結晶構造モデル構築を行い、基質スクリーニングを開始する予定であったが、まだそれには至っていない。 しかしながら上述の通り、詳細を検討したPDCについては変異体の構築に取り組むとともに、活性中心残基および酵素活性向上に寄与するアミノ酸残基の抽出に成功している。特に1残基変異を導入することで、2倍以上の酵素活性を達成している。この結果を基にすることで、この他のPDCの評価についても確実に行うことが可能であると思案する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては、まず進行が遅れているPDCの3D結晶構造モデルの構築と基質スクリーニングについて検討を行う。これらについてはすでに手法をある程度確立することができたため、評価・検討・再構築を行ってフィードバックを行い、結晶構造モデルの妥当性向上に勤める。 特に本年度はそれらのデータと基質特異性評価を基に変異体構築を行い、狙った化合物に対する基質特異性を向上・低下できるかどうか、普遍的な酵素変異体の設計戦略の確立について検討する。導入を行う変異数についても、サイクルごとに1つづつ変異箇所を増やすだけではなく、インシリコで特定の化合物への親和力が向上するような多重変異体を構築し、一度の検討で目的の機能を満たすような高性能な酵素変異体の開発手法について検討を行う。
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