2019 Fiscal Year Research-status Report
分子ダイポールを利用した電子移動経路設計の光電変換ナノデバイスへの展開
Project/Area Number |
19K15375
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宇治 広隆 京都大学, 工学研究科, 助教 (50788164)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ペプチドナノチューブ / 分子集合体 / 有機分子デバイス / 環状βペプチド / ヘリックスペプチド / 光電変換素子 / 誘電体材料 / pH刺激応答分子集合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では分子ダイポールを利用して構造と機能界面を制御し、一方向の電子移動を実現するナノサイズの光電変換分子素子の構築を提案している。環境エネルギーを用いたエネルギーハーベスティングの実現、つまり、デバイスサイズの微細化・低消費電力化に基づく有機分子デバイスの発展においては、光合成系タンパク質に見られるようなナノレベルでの構造制御と、電子移動の方向制御が課題である。ペプチド分子のアミド基由来のダイポールは、静電相互作用に基づく強い相互作用を生じ、また、局所的に106 V/cmもの電場を生じさせることから、ダイポールは分子の組織化と電荷分離の促進およびそれに続く電子移動の方向制御を同時に達成できる重要な要素と考えている。本研究では、αヘリックス構造とβシート構造に着目して、規則的に配列したアミド基が誘起するダイポールの方向を制御して、高効率で一方向の電子移動が可能な天然のタンパク質に匹敵するナノ光電変換デバイスの開発を目指した。 平成31年度においては、上記目的を達成するため、新規ヘリックス-環状βペプチド複合ペプチド分子の設計と合成を行った。また、環状βペプチドからなるペプチドナノチューブの機能性分子集合体の構築を目的として、環状βペプチドにアクセプター性のクロラニルを導入することで、正バイアス方向に電流が良く流れるn型半導体ペプチドナノチューブを構築した。また、クロラニルとTTFを側鎖に持つ環状βペプチド分子を共結晶化させることで、PFM測定においてヒステリシス応答を示す強誘電性PNTを構築した。更に、外部pHに応答して側鎖の配列のみを変化させるナノチューブの構築にも成功した。この材料は、天然の光合成蛋白質で見られるように、pHで電子移動をOFFにすることで過剰な電子移動反応から分子デバイスを保護する保護回路として応用できると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成31年度ではαヘリックスペプチド側鎖を導入した新規環状βペプチド分子の合成を計画しており、現在までに新規ペプチド分子の合成を実施した。具体的にはβAla-βAspの交互配列6量体からなる環状βペプチド骨格を合成した後、Alaとアミノイソ酪酸(Aib)の交互配列8量体からなるヘリックスペプチドのC末端側に光受容性部位としてエチルカルバゾール(ECz)を導入したヘリックスを合成した。その後、この環状βペプチドのAsp側鎖にヘリックスを修飾した目的分子であるヘリックス‐環状β複合ペプチド分子の合成を実施した。1H NMRおよびMALDI MSの結果から目的化合物の合成と精製を確認した。また、令和2年度で行うペプチドナノチューブへの組織化を行う際に、分子の溶解性が問題になると予想されるため、分子に十分な溶解性を付与できるように申請時から分子設計を変更して研究を遂行した。 さらに、本研究課題で掲げている環状βペプチドからなるペプチドナノチューブを用いた分子素子の開発から派生して、アクセプター性のクロラニルを環状βペプチドに導入することで、正バイアス方向に電流が良く流れるn型半導体ペプチドナノチューブを構築した。また、クロラニルとTTFを側鎖に持つ環状βペプチド分子を共結晶化させることで、PFM測定においてヒステリシス応答を示す強誘電性PNTを構築した。更に、外部pHに応答して側鎖の配列のみを変化させるナノチューブの構築にも成功した。この材料は、天然の光合成蛋白質で見られるように、pHで電子移動をOFFにすることで過剰な電子移動反応から分子デバイスを保護する保護回路として応用できると考えられる。このため、本研究課題の現在までの進捗状況は「当初の計画以上に進展している」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度においては、平成31年度に合成した新規ヘリックス-環状β複合ペプチド分子を用いて、ペプチドナノチューブの調製を試みる。ペプチドナノチューブは、環状βペプチド骨格が環アミドの水素結合形成を介してスタックすることにより形成する。ペプチドナノチューブを構築した後に、分子集合体のモルフォロジを透過型電子顕微鏡(TEM)および原子間力顕微鏡(AFM)を用いて評価する。また、分光光学測定により側鎖に導入したヘリックスペプチドの末端のECz基の配向を明らかにし、ヘリックスペプチドと環状βペプチドの分子集合体中での構造を評価する。 また、上記で調製したペプチドナノチューブを用いて、金基板上でのナノチューブの組織化と光電変換特性評価を試みる。具体的には、βAlaに金と結合する官能基を導入した環状βペプチドを用いて金基板に自己組織化単分子膜(SAM)を形成させる。このSAMは環状βペプチドのアミド基の向きが全てカルボニル基が表面にでるように固定化されるため、ペプチドナノチューブの配向固定化が可能である。また、ペプチドナノチューブのダイポールが形成する表面電位を表面電位顕微鏡(KFM)を用いて測定することで、ペプチドナノチューブの配向固定化を評価する。さらに、このペプチドナノチューブ修飾金基板を用いて光電変換測定を行う。光電変換におけるダイポールモーメントの影響の評価として、環状ペプチドを有していないヘリックスペプチドSAMでの光電変換特性の評価に加えて、導電性AFMによるペプチドナノチューブ単分子での電流‐電圧特性評価を行う予定である。
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