2019 Fiscal Year Research-status Report
Room temperature spin-polarized light emission by excited spin engineering of size-modulated coupled quantum dots
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19K15380
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
樋浦 諭志 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (30799680)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 半導体量子ドット / 結合量子ドット / 光物性 / 励起状態 / スピンダイナミクス / スピン緩和 / スピン注入 / スピン光デバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
III-Ⅴ族化合物半導体量子ドットは電子スピンの緩和時間が発光寿命に対して十分に長いため、超低消費電力スピン光デバイスの光学活性材料として期待されている。量子ドットに注入される電子のスピン特性は光電変換により発光の円偏光特性に直接変換される。本研究では、量子ドットの励起スピンエンジニアリングによる室温円偏光発光を目的とし、熱励起による電子スピン緩和への影響に加えて、その効果的な抑制手法について研究した。本年度に得られた研究実績は以下の通りである。 (1) サイズ変調多重結合量子ドットを作製し、結合励起準位において一時的な円偏光増幅ならびに80%を超える円偏光度を達成した。また、円偏光増幅が小さなドット層から大きなドット層への少数個スピンの選択的移動に起因することを明らかにした。 (2) 高密度量子ドット集合体において、ドット間での熱励起を介したバリアへの熱脱離ならびに電子スピンの再注入が励起状態の電子スピン緩和を促進することを明らかにした。また、量子ドットを埋め込むキャップ層の成長温度を下げることで、高In濃度のInGaAs量子ドットを作製し、熱励起の影響が抑制されることで高温でのスピン保持特性が向上することを明らかにした。 (3) 薄い量子井戸に量子ドットを埋め込むことによって、室温で従来と比較して1桁以上強い発光強度ならびに80%の光電スピン変換効率を達成した。高い変換効率は量子井戸の存在による電子スピンの高い捕獲効率、再注入の抑制、再注入電子スピンの偏極度の向上に起因することを明らかにした。 (4) 量子ドットを埋め込むキャップ層にpドーピングを施すことで、バリア中の電子スピン緩和が抑制され、励起状態の円偏光度が室温で約2倍に増加することがわかった。また、強磁性電極層にFe、トンネルバリア層にMgOを有するスピン偏極発光ダイオードを作製し、室温で約10%の円偏光度を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の根幹であるサイズ変調結合量子ドットにおける電子スピン偏極の増幅や、熱励起による励起状態の電子スピン緩和への影響とその効果的な抑制手法に関して以下の重要な知見が得られている。特に、結合量子ドットにおいて、低温ではドット間の波動関数の強い結合により、励起状態のスピン緩和により生じる少数個スピンを効率的に除去し、電子スピンの偏極度を増幅することが可能であるが、高温ではドット間の熱励起を介したバリアへの熱脱離と電子スピンの再注入の影響を強く受けることで、電子スピンの偏極度が大きく低下することがわかった。本年度は上記の熱励起の影響を定量的に理解することに加えて、この課題を抜本的に解決できるドット内、さらにはドット周辺の量子構造を提案し、室温高スピン偏極発光を実証した。 まず、高In濃度のInGaAs量子ドットを作製し、励起状態からバリアへの熱脱離さらには基底状態から励起状態への熱励起の影響を抑制することで、高温における量子ドット内の電子スピン緩和の抑制を可能にした。また、量子ドットを埋め込むキャップ層にpドーピングを施すことで、バリアから再注入される電子スピンの偏極度を増加させ、円偏光特性を向上させた。次に、薄い量子井戸に量子ドットを埋め込んだハイブリッドナノ構造を作製し、室温での発光特性ならびに光電スピン変換効率を飛躍的に向上させた。この結果は室温動作が可能なスピン光デバイスの実現に向けて長年課題となっていた、「室温での電子スピン緩和」を効果的に抑制できるという観点から、半導体光スピントロニクスにおける大きなブレークースルーである。今後、量子井戸の膜厚を最適化することにより、光電スピン変換効率の更なる向上も期待できる。さらに、室温動作に向けた応用研究として量子ドットを光学活性層に用いたスピン偏極発光ダイオードを作製し、強磁性電極から活性層への高いスピン注入効率を達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
スピン光デバイスの開発に向けた要素技術を確立するため、量子ドット周辺の量子構造の最適化だけでなく、量子ドットへの長距離スピン保持輸送、さらには強磁性電極層から光学活性層へのスピン注入効率の向上を目指す。 まず、室温での電子スピン偏極の増幅効果を持つ希薄窒化GaAsを量子ドット近傍に配置することによって、室温での円偏光発光特性の飛躍的な向上を図る。最近、国際共同研究の成果として、希薄窒化GaAs量子井戸と量子ドットをトンネル結合させることによって、室温での完全スピン偏極を反映した量子ドットからの円偏光発光を確認している。この希薄窒化GaAsと本年度に得られた量子ドットの励起状態に関する知見をうまく活用することで、高輝度かつ高スピン偏極を両立した室温での完全スピン偏極発光を目指す。また、室温での長距離スピン輸送の実現に向けて、2019年に実証した超格子中の量子波を用いたスピン輸送に希薄窒化GaAsを活用する。具体的には、GaNAs/AlGaAs超格子を量子ドット近傍に配置することで、長距離輸送中の電子スピン偏極度の保持、さらには増幅を図る。これが実現することで、生成時の電子スピンの偏極度が低い場合でも、輸送中の増幅効果により完全偏極に近い電子スピンを発光層へ注入することが可能となる。最後に、スピン偏極発光ダイオードの円偏光発光特性を向上させるため、強磁性電極層とトンネルバリア層の検討を行う。具体的には、Fe3O4に代表される高いスピン偏極度を持つハーフメタル材料を強磁性電極層に活用し、活性層に注入される電子スピンの偏極度を増加させる。また、トンネルバリアとして、MgOの最適化だけでなくGaO、Al2O3などの他トンネルバリア材料についても同時に検討を行う。これらのスピン光デバイスの要素技術を結集させることで、室温で安定的に動作する量子ドットスピン偏極発光ダイオードの実現を目指す。
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Causes of Carryover |
申請時の予定よりも研究が早く進展したため、分析費用がかからなかった。また、参加予定であった学会が中止となったため、当初の想定よりも旅費が少額となった。次年度は電流注入円偏光発光測定に係る光学部品ならびに国内外の学会参加費に使用する予定である。また、現在投稿準備中である国際学術論文の英文校正費に使用する予定である。
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Research Products
(25 results)