2019 Fiscal Year Research-status Report
合成と精製による遷移金属カルコゲナイドナノチューブの1次元化と物性解明
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19K15392
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
蓬田 陽平 首都大学東京, 理学研究科, 助教 (90647158)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 遷移金属カルコゲナイドナノチューブ / 遷移金属ダイカルコゲナイドナノチューブ / 遷移金属カルコゲナイド / 遷移金属ダイカルコゲナイド / 無機ナノチューブ / 構造制御 / 合成 / 電気二重層トランジスタ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、層状物質を筒状に巻いた遷移金属ダイカルコゲナイドナノチューブ(TMDC-NT)の合成技術を開発し、これまでに開発してきた分離精製技術と組み合わせることで、未だ実現されていない1次元性を有する均一なTMDC-NTを創製し、1次元性を反映した物性やバルク・2次元系を超えるデバイス応用を実現することを目指す。これまでの研究で用いていた市販試料は1次元化に必要な小直径試料をほとんど含まず、小直径試料に特化した合成技術の開発が求められる。また、TMDCはMX2 (M = Mo, W, Nb, X = S, Se, Te) の構造を取り、構成元素により物性が大きく変化するため、異種元素試料はTMDC-NTの物性研究やヘテロ接合デバイス等のデバイス応用に必要である。しかし、WS2-NT以外の研究はほとんど行われていない。そのような背景の下、2019年度は、試料の1次元化に必要な小直径TMDC-NTの合成技術の開発、デバイス応用に向けた異種元素への展開を行った。 合成技術の開発:TMDC-NTの合成は、前駆体となる金属酸化物ナノワイヤの合成、ナノワイヤからナノチューブに変換するためのカルコゲン化に分けられる。本研究では、液相合成によってナノワイヤを得て、その構造を維持しつつナノチューブにするカルコゲン化技術を確立し、得られたWS2-NTが良好なトランジスタ特性を示すことを明らかにした。得られた試料の平均直径は20 nmであり、市販試料(100 nm)に比べて大幅な低次元化に成功している。また併行して、気相法によるナノワイヤの合成を行うための合成装置の構築を行った。 異種元素への展開: 水素存在下でカルコゲン化を行うことで、ナノワイヤのセレン化が可能になることを発見し、平均直径19 nmのWSe2-NTの合成に成功した。トランジスタ測定によりWSe2-NTの両極性伝導を初めて明らかにし、光学測定によりWS2-NTとは明確に異なる光学ギャップを実験的に観察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、TMDC-NTの合成技術を開発し、精製技術と組み合わせることで、未だ実現されていない1次元性を有する均一なTMDC-NTを創製し、1次元性を反映した物性やバルク・2次元系を超えるデバイス応用を実現することを目指している。その実現に向けて、2019年度は、試料の1次元化に必要な小直径TMDC-NTの合成技術の開発、デバイス応用に向けた異種元素への展開を計画し、以下に示すように当初の計画通りに進展している。 合成技術の開発:本研究目的を達成する上で、1次元性が期待される直径10nm以下のTMDC-NTの合成は必要不可欠な課題である。本研究において液相合成ナノワイヤから得られたTMDC-NTの平均直径は19-20 nmであり、これまでの研究で用いられた市販試料(平均100 nm)に比べて大幅な低次元化に成功しており、これまでに開発してきた分離精製技術と組み合わせることで、直径のさらなる低減、ひいては1次元性の発現が期待される。物性研究に必要な量を得るためには、より平均直径を下げることが望ましいが、1次元性を有するTMDC-NTの準備状況としては順調に進展している。 異種元素への展開: WSe2-NTへの展開は、本研究の目的である物性開拓やデバイス応用に非常に重要な進展である。TMDC-NTのデバイス特性は、試料の1次元性や構成元素に大きく依存するため、構成元素の自由度はデバイスの高性能化に欠かせないパラメータである。特にWSe2-NTとWS2-NTは、異なるバンドギャップを有することが実験的に観察されており、ヘテロ接合デバイス等への応用が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、TMDC-NTの合成技術を開発し、精製技術と組み合わせることで、未だ実現されていない1次元性を有する均一なTMDC-NTを創製し、1次元性を反映した物性やバルク・2次元系を超えるデバイス応用を実現することを目指している。2019年度の研究で、平均直径20 nmの小直径TMDC-NTの合成には成功したが、1次元性を有する試料の実現に向けて、さらなる平均直径の低減が望ましい。また、WSe2等の半導体TMDC-NTへの展開には成功したが、物性が大きく変化するNbSe2等の超伝導TMDC-NTやWTe2等の半金属TMDC-NTへの展開は実現できていない。 2020年度は、液相法の改良、および前年度構築した装置系を用いた気相法の開発を行い、小直径のナノワイヤの合成、タングステン以外の金属酸化物ナノワイヤの合成を目指す。得られたナノワイヤに前年度確立したカルコゲン化技術を適用し、低次元構造を維持しつつTMDC-NTを得る。液相法は、原料やそれらの濃度を変化させ、ナノワイヤの合成を行う。気相法は、金属ホイルの表面を酸化させナノワイヤを成長させる酸化法、上流側で金属酸化物を気化させ下流側でナノワイヤを成長させる蒸発法を駆使し、ナノワイヤの合成を行う。良好な小直径試料が得られたら、精製技術を組み合わせ、1次元化を反映した電気伝導特性・光物性・熱電物性の観察を目指す。
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Causes of Carryover |
合成装置が当初の予定より安価に導入できたため、余剰分が生じた。 余剰分は、次年度、代わりに必要となった合成装置の部品の購入にあてる。
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Research Products
(12 results)